今季のJ2・FC町田ゼルビアは4位で全日程を終了した。17日に町田市立陸上競技場で行われた東京Vとのホーム最終戦は、1万13人の今季最多の大観客を集めた。試合は1-1のドローだったが、試合後の相馬直樹監督(47)は、波乱含みの後半戦を戦い終え、やや疲れた表情を見せた。

結果論となるが、この試合で町田が東京Vに勝っていれば、J2初優勝だった。そして、仮に町田が優勝していれば、J1で降格圏内にいるチームにとって、大いなる朗報になる可能性があった。

町田は9月の審査会によって、J1ライセンスが付与されなかった。ホームスタジアムの改修や、練習場、クラブハウスなどの練習環境が、J1ライセンス取得条件をクリアできなかったため。つまり町田の来季J1昇格は消滅していた。その町田が自動昇格圏の2位までに入れば、J1の自動降格チームは当初の2チームから1チームに減る。J1の17位のチームは、自動降格を免れ、プレーオフに回ることができる。

こうした複雑な状況の中で、相馬監督は最終戦を戦ったわけだが、試合後の会見では苦悶(くもん)の表情でこう言った。

相馬監督 J1クラブの方から、「がんばってくれよ」との連絡がありました。どこかでもやもやしたものがありました。監督の私ですらそうした気持ちでしたから、選手はもっとそういう気持ちだったと思います。聞いたところでは「頑張ってくれよ」とか、「頑張るなよ」と言われていたようです。(勝つための)エネルギーが落ちることがあったと思う中で、こうして優勝を狙える位置でホーム最終戦を迎えることができました。そして、最後まで戦った選手には頭が下がる思いです。自分だったらできるか…。分かっていたこととは言え、戦い続けてくれた選手を褒めてあげたい。

恐らく、降格圏内のJ1クラブ関係者は、町田がシーズンを2位以内で終わることを望み、自分たちの残留のために町田へエールを送っていたことは想像に難くない。

町田がJ1ライセンス付与を逃し、かつJ2で優勝争いを続けていたからこそ、こうしたレアケースでの”ゆがんだ激励”という現象が起きたことになる。町田は9月にJ1ライセンスが付与されない決定を受け、10月にはサイバーエージェント社の藤田社長が町田ゼルビアを子会社化することを公表し、藤田社長は実質的なオーナーに就任している。藤田社長はこの日の試合後、J1ライセンス取得を目指して準備を進めていく考えを示し、来季の成績いかんでは町田の悲願が達成される可能性も見えてきた。

町田はJ1ライセンスを巡り、シーズン後半戦で大きく振り回された格好だが、それはクラブの問題であり、その中でシーズンを戦い抜いた選手達の心中を察すると、複雑なものが見えてくる。FW中島裕希(34)はベテラン選手らしく穏やかな表情で今季のレアケースを振り返った。

中島 僕は直接言われませんでしたが、チームの中にはJ1の関係者から激励されたという話は聞きました。確かにいろんな思いはあるんでしょうが、僕は優勝することだけを考えてやっていたので、そうした声には特に何も感じませんでした。J1ライセンスのことにしても、それぞれの選手によって、町田でプレーする意味は異なります。ステップアップを目指す選手もいるだろうし、チームを昇格させるため、優勝するために戦っている選手もいます。ライセンスは与えられませんでしたが、その中でチームとしては優勝のためにまとまって戦うことはできたと思います。4位でしたけど、上位でシーズンを終わったことで、サイバーエージェントさんの協力など、取り巻く環境が変わってきているのも事実だと思います。

Jリーグはプロ野球と違い、J1、J2での入れ替えというシステムがある。だからこそ、最後の最後までファンは応援するクラブの戦いに集中して声援を送る。そして、そこに昇格するための必須の条件があることも、リーグを健全に運営するためのひとつのやり方として定着している。

下位リーグで優勝争いするチームが、昇格条件を満たさない時、こうした「もやもやした」人間模様が再び起きる可能性はある。それも含めて、し烈なJ1争いということなのかもしれない。【井上眞】