16年ぶり2度目の優勝を目指すスペインにとって、ワールドカップ(W杯)北中米大会は波乱の幕開けとなった。
■データは優勝候補最右翼
スペイン国内ではレアル・マドリード会長選の動向が連日報道されていたことで、W杯へ本格的に関心が向いたのは開幕直前と遅かったものの、今回の代表チームに対する人々の期待はいつも以上に大きなものとなっている。
スペインはデラフエンテ監督就任後の3年半、公式戦でわずか1敗しか喫しておらず、欧州選手権優勝1回、欧州ネーションズリーグ優勝1回、準優勝1回と、ヨーロッパで圧倒的な成績を収め、FIFAランキングで2位につける。
スポーツデータサービス「Opta」が先週、スーパーコンピューターによる2万5000回のシミュレーションを行った結果、スペインの優勝が15・96%と予想した。その後に続くのは、フランス(13.28%)、イングランド(10.18%)、アルゼンチン(9.96%)、ポルトガル(7.98%)。
さまざまな要素から優勝の最有力候補に上がるスペインだが、W杯初戦はいつの時代も“鬼門”だ。過去16大会における初戦の成績は5勝4分け7敗と、出だしで躓く傾向にある。その原因として、優勝候補に挙げられることで特に初戦を落としたくない相手が守備に徹すること、高い期待から生じる過度なプレッシャーや不安、過信から相手を過小評価してしまうことなどが考えられるが、コスタリカに7−0と圧勝を収めた前回大会のように、今回もそのジンクスが外れて欲しいと誰もが願っていた。
今大会初戦の相手はW杯初出場のカボベルデ(FIFAランキング64位)。大手ブックメーカーのオッズはスペイン勝利1・08倍、カボベルデ勝利26・00倍と、圧倒的な力の差を示していたが、過去を知る者にとっては一抹の不安を抱えたまま初戦を迎えることになった。
この一戦に向け、スペインサポーター約7000人が現地を訪れた他、首都マドリードではコロン広場でパブリックビューイングが開催され、様々なイベントで盛り上げた。皆が大量得点での勝利を期待し、視聴率は今年最高の60・4%を記録したが、その不安は現実のものとなる。
けがの影響で先発起用できなかった両ウイング以外ベストメンバーで臨んだスペインは、圧倒的に試合を支配して801本ものパスをつなぎ、ほぼすべての時間を敵陣で戦った。ボール支配率74・2%、シュート27本(枠内7本)を記録したが、守備に徹したカボベルデの壁を最後まで突破できず、スコアレスドローで終了。またしても初戦が“鬼門”となってしまった。
■「大失態」「歴史的失望」
試合翌日のスペイン紙の一面は、「大失態」(マルカ紙)、「歴史的な失望」(アス紙)、「非常事態」(ムンド・デポルティボ紙)など辛辣な言葉が並び、不本意な試合結果ながらイタリア(31試合)を抜いた、代表チームの公式戦連続無敗の世界記録(32試合)は苦い形での樹立となった。
デラフエンテ監督は試合後の記者会見で「カボベルデが極端に低いブロックを敷いてくることは分かっていた。チャンスは作ったが決定力を欠いてしまった」と分析。「批判の声は大歓迎だ。我々は今日、無敗記録を32試合に伸ばした。勝てていればもっと良かったが、ビッグトーナメントではこういうこともある。初戦が重くのしかかったかもしれないが、自分たちに疑問を抱くことは何もない」と大きな問題がないことを強調していた。
スペイン国内では当然のことながら、さまざまな分析が行われた。スペインの攻撃を無力化した組織的な守備や40歳のGKボジニャの好守など、カボベルデを評価しつつも、決定力不足、デラフエンテ監督の交代の遅さや判断の悪さ、引いた相手を崩すサイドアタッカーを先発起用できず縦の突破がなかったこと、MFガビ(バルセロナ)をウイングでサプライズ起用したこと、MFペドリ(バルセロナ)が精彩を欠いたこと、空中戦に強いFWボルハ・イグレシアス(セルタ)を投入しなかったことなど、さまざまな問題点が指摘されたが、マルカ紙の「単にプレーが悪かっただけ」という総評に尽きるのかもしれない。
実際、2年前の欧州選手権優勝の原動力となったFWヤマル(バルセロナ)とFWニコ・ウィリアムズ(ビルバオ)の両ウイングがけが明けでスタメンに名を連ねられず、カタール大会のスペインを彷彿とさせる内容となった。
ルイス・エンリケ前監督(現パリ・サンジェルマン監督)に率いられた前回、ゴール前を固めた相手に対し、ペナルティーエリア周辺で闇雲にパスを回すことしかできず、決定機をほとんど作れなかった。ボール支配率は、1−2で逆転負けした日本戦は83%、PK戦負けのモロッコ戦は77%、1試合平均76・3%と圧倒的な数字を誇示したが、ボールを持ちすぎたことが裏目に出て、相手に引かれて攻めあぐみ、ラウンド16で姿を消すこととなった。
後任を担ったデラフエンテ監督はその教訓を生かし、盲目的なポゼッションサッカーからの脱却を図り、持ち味のパスワークにサイドのスピードを生かしたカウンターを融合させた。これが功を奏し、相手の背後にできたスペースをうまく突き、2タイトル獲得という近年の偉業につなげていった。
■オヤルサバルにパス渡らず
カボベルデ戦はチームの核となるサイドアタッカーを欠いたことで、攻撃が行き詰まった際のオプションがなく、センターフォワードにほとんどボールが渡らなかった。直近11試合で12得点6アシストと絶好調だったFWオヤルサバル(レアル・ソシエダード)が「イングランド大会(66年)以降のW杯で、試合開始から30分間一度もボールに触れられなかった最初の選手」という不名誉な記録を残すことになったことは、この日のスペインの出来を如実に表している。
スペインはH組を2位通過した場合、ラウンド32という早い段階で前回王者のアルゼンチン(FIFAランキング1位)と対戦する可能性が高い。いつかは対峙する大きな壁ではあるが、このタイミングではないと考えているはずだ。そのためには21日(日本時間22日)のサウジアラビア戦(FIFAランキング60位)に絶対に勝たなければならない。カボベルデ戦同様、徹底的に引かれる可能性が高いため、初戦の教訓を生かす必要がある。
出場国が48に拡大されたことで優勝までが8試合に増えたこと、過酷な気候、過度な移動距離、標高2000メートルを超える高地での試合など、どの国にとっても史上最も過酷なW杯であることは間違いない。
この大会を制すスペインの戦いは、まだ初戦を終えたばかりだ。就任後の3大会すべてでチームを決勝に導いてきたデラフエンテ監督が予想外の躓きをこれまでのように改善し、スペインらしいサッカーで世界中を魅了してくれることを期待したい。
【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)











