カヌー禁止薬物混入問題で被害にあった小松正治(26=愛媛県体協)が、昨年12月の資格停止処分解除後初のレースを迎えた。身に覚えのないドーピング陽性反応が出てからの苦しかった時期を乗り越えて心機一転。男子カヤックシングル(1人乗り)500メートルで4位に入り、アジア大会(8月、ジャカルタ)のカヤックフォア(4人乗り)出場も濃厚となった。

 レースを終えた小松は、安堵(あんど)の表情だった。「やっと戻れた」。昨年10月にドーピングの陽性反応が出てから疑いが晴れるまでの約2カ月間、感覚を鈍らせないために1日1回は艇に乗る練習を心がけたが、集中できずにすぐに引き揚げる日々。当時は東京五輪への夢もあきらめかけた。前夜は「こうしてスタート地点に立てることに感謝をしないと」と誓って臨んだ復帰戦だった。

 加害者の鈴木康大(32)には「一緒にやってきたし、恨むに恨めない」と今も、複雑な思いは変わらないまま。もともと「雲の上の存在」で、13年に代表入りしてからは、買い物にも家にも何度も行った仲だった。昨年9月に盗まれたパドルは今年1月末に手元に返ってきたが、アパートに置いてきた。すでに使っている新しいパドルで新たなスタートを切った。

 見届けた日本代表のイスパス監督は「アジア大会のカヤックフォア代表にも90%選ばれるだろう」と太鼓判を押す。14年仁川大会カヤック男子シングル200メートルで3位の小松は「金を取ってリベンジをしたい」と言い、明日31日の200メートルに目を向けた。代表選手は4月から石川・小松市で毎週末行われる合宿を経て正式に決定する。【戸田月菜】

 ◆カヌー薬物混入問題 昨年9月11日のスプリント日本選手権で、鈴木が小松の飲料水ボトルに禁止薬物の筋肉増強剤メタンジエノン1錠を混入。レース後のドーピング検査の結果、10月19日にA検体、11月17日にB検体で陽性が判明した。日本連盟が選手を聴取し、同20日に鈴木が古谷専務理事に自白、現金やパドルの窃盗なども発覚した。JADAは暫定的な資格停止となっていた小松の処分を12月13日に解除し、鈴木に8年間の資格停止処分を科した。日本代表の座を争っていた鈴木が練習でも小松に力負けし、妨害行為に及んでライバルの足を引っ張った。