【際立つ周東】現代なら「代走・サニブラ」…代走要員で短距離王を獲得した55年前

「足で稼ぐ」と言います。テレワークの時代にはそぐわない表現でしょうが…球界ではよく使われます。代走役など、そのまま当てはまります。ソフトバンクの周東佑京選手(27)は「稼ぎ頭」かもしれません。代走といえば、陸上100メートルの五輪代表が指名されたことがあります。55年前の飯島秀雄がその人。新たなファン獲得を狙う東京(現ロッテ)のアイデアでしたが、現役生活は3年で終わりました。球団の「足で稼ぐ」もくろみは外れました。

プロ野球

真骨頂 6月28日の楽天戦

周東の盗塁数は、球宴までの前半戦で19を数えた。両リーグトップの数。

50メートルを5秒7で走るといわれる俊足は、相手のわずかなミスも逃さない。6月28日の楽天戦では周囲の度肝を抜く走塁を見せ、1点をもぎ取った。

2-2の同点で迎えた8回裏、ソフトバンクは1死満塁の好機を築いた。

ここで渡辺翔太の投じた1球がワンバウンドしてしまう。捕手炭谷銀仁朗がブロックし、ボールは投手方向に転がった。

その瞬間、代走の周東が三塁から突っ込んできた。渡辺がグラブトスを試みたときには、頭から本塁に滑り込んでいた。

件の楽天戦、生還の場面。周東とバッテリー、球審、ボールの位置関係が絶妙な1枚

件の楽天戦、生還の場面。周東とバッテリー、球審、ボールの位置関係が絶妙な1枚

炭谷にすれば後逸したわけではない。精いっぱいのプレーだった。そこを突く「足で稼いだ」決勝点。

本盗にも見えたが、記録は暴投になった。

周東は「体が勝手に反応した。打つ守るだけじゃなく、走塁も大事な部分だと思っている。これからも勝利に貢献できるようやっていきたい」と話した。

前半戦、65試合に出場し、代走の出番は30回あった。盗塁5で盗塁死が2。成功率は7割1分4厘だった。

残る35試合(先発、代打、守備)では、盗塁14、盗塁死1を記録した。成功率は9割3分3厘。代走での盗塁は少なく、成功率も大きく下回った。

勝負のかかる終盤、相手バッテリーの警戒も強まる中の出番。周東の足をもってしても、盗塁は簡単ではなかった。

そんな代走に、陸上100メートルの王者を起用しようという珍案が飛び出した。

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徳島・吉野川市出身。1974年入社。
プロ野球、アマチュア野球と幅広く取材を続けてきた。シーズンオフには、だじゃれを駆使しながら意外なデータやエピソードを紹介する連載「ヨネちゃんのおシャレ野球学」を執筆。
春夏甲子園ではコラム「ヨネタニーズ・ファイル」を担当した。