稲垣裕之(39=京都)が通算12度目の挑戦で悲願のG1初制覇を達成し、涙のウイニングランでファンに祝福された。

 脇本雄太(27=福井)の赤板先行に乗って、最終バックからの番手まくりで快勝。昨年は獲得賞金で初のKEIRINグランプリ(GP)参戦だったが、今年はG1覇者として頂点を狙う。

 夢にまで見たG1制覇が現実のものになった。そのことをファンの声援で確信した瞬間から、稲垣の男泣きが止まらない。「やっと取れたな」と村上義弘に背中をたたかれた瞬間に、涙腺は完全崩壊した。悔し涙を流してきた数だけ歓喜の涙は格別だった。

 「感無量です」。稲垣らしく、生真面目に返ったが、それも武骨な稲垣らしく、よく似合う。

 ラインの結束が新たなタイトルホルダーを誕生させた。別線とはいえ、古性優作がインを切って、脇本雄太が赤板から先行態勢に入った。打鐘から最終ホームは一列棒状。大阪勢が中団からまくる動きをみて最終バックから番手発進。「脇本君に悪いが踏ませてもらった」と、また涙ぐんだ。

 競輪人生は悔し涙の連続だった。6年前の10年8月の富山G3の落車で骨盤骨折して、選手生命の危機に直面した。再起したが「選手になった時からの夢」であるG1制覇は遠かった。

 初めてS級S班として参戦した2月全日本選抜は決勝で脇本の番手ながら落車失格で右鎖骨を骨折した。3月日本選手権は負傷欠場。8月オールスター決勝は、赤板先行した村上義弘の番手で最終1角から番手まくりを放ったが、ゴール寸前で岩津裕介に差し切られ、号泣した。

 G1決勝で流し続けた涙に終止符を打った。鉄の結束を誇るラインに支えられて頂点に立った。「勝つだけが競輪じゃない。ファンにアピールするレースをしていく」。悔し涙を糧にはい上がってきた男に、もう涙はなかった。【大上悟】