前回はカタールに移籍した中島選手と、そのカタールについて少しお話をしましたが、この間に大きく動いているクラブがありました。刻々と近づいてきているFIFAファイナンシャルフェアプレー(FFP)の審査に対する政治的けん制であると現地では報じられるなど、非常に怪しい動きに見えます。今回はこの辺りをのぞいてみたいと思います。

まず、2月下旬にエミレーツ航空が次シーズンよりパリサンジェルマン(PSG)のメインスポンサーから外れると発表がありました。

これには以前お話ししていたように、非常に多くの意味が含まれている、政治色の強い決断が見え隠れしている事象になります。同時に新しいスポンサーとして発表されたのは、フランスを中心にホテル事業をメインに行う「アコー」。特にこのアコーグループが展開するオンラインプラットフォームサービスの「アコー・ライブ・リミットレス」という名前がユニホームに入るとのことでした。

このアコーグループはヨーロッパをメインとしたホテルグループで、PSGと共にオンラインプラットフォームを活用して世界にビジネスを拡大していく動きが狙いのようです。非常に理にかなった取り組みであることが感じますが、なんせフランスのグループですから、カタールとフランスの政治的な動きを感じざるを得ません。UAEの企業であるエミレーツ航空が外れたことで、他国の企業スポンサーがなくなり、カタール資本のPSGとフランスのアコーグループに絞られました。わかりやすく言うのであれば、カタールが孤立するような情勢となったわけです。

この動きと同時にヨーロッパサッカー連盟(UEFA)の方でも動きがありました。

この発表の少し前に、UEFAのエグゼクティブコミッティ(実行委員会)の選挙がありました。そこに今回筆頭候補で手が上がっており、選手経験含めて非常に選ばれる可能性が高かったのがアヤックス、ユベントスやそしてマンチェスターUで活躍した元オランダ代表GKのファン・デル・サール氏。現場の選手の意見を取り入れるという部分では非常に期待が高く、選出の可能性は大とされておりました。

しかし、実際ふたをあけてみると、ファン・デル・サール氏は落選。代わりに選出されたのが、PSGの会長を務めるナーセル・アル=ヘライフィー氏。彼は現カタールのタミーム皇太子(現首長)の友人でもあり、皇太子からの依頼でPSGの会長を引き受けた経緯がありますから、カタールとは非常に密接なつながりがあります。つまり、UEFAの動きが逐一入手できる立場になったと言っても過言ではありません。

同じくしてメンバーに選出されているのはユベントスの会長でもあるアンドレア・アニェッリ氏。こちらも大型補強でメインスポンサーのフィアットの社員がデモを起こすなど、お金の使い方の部分ではハレーションが起こりました。

第1弾として裁定がくだったチェルシーは補強をすることができず、これによって大きくチーム編成が変わってくる事態になっており、第2弾、第3弾がユベントス、PSGに下される事態となれば、当然高額な値段がつく選手を手放すことも十分に考えられます。ストライカー不足に悩むレアル・マドリード、マンUといった王者奪還を狙うチームが既に動き始めているかもしれませんし、もう少し目を凝らすとそこに目をつけて動いているのは大物代理人に他なりません。

まだまだ動きそうなヨーロッパ市場ではありますが、既に駆け引きは始まっているように感じます。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)