今まで各クラブのファイナンシャル面のお話を中心にしてきました。今回はこの夏のスポーツ界を大きく賑わせているレアル・マドリードへの久保建英選手加入、そしてバルセロナへの安部裕葵選手の加入からくるビジネスの可能性という部分についてお話ししてみたいと思います。

世界を代表するトップクラブに若くして日本人選手が入団したわけですが、スポーツビジネスという視点からすると多くの機会がそこには生まれてくると考えられます。

まず一番初めに出てくるのは、選手の移籍に対し、必ずと言ってよいほど付随してくる放映権に関することです。三浦知良選手、中田英寿選手がイタリアへ移籍した時は、深夜にテレビにかじりついてセリエAを見ていたことを思い出すファンの方々も多いのではないでしょうか。

では、実際のところ久保選手や安部選手の契約したセグンダB(スペインリーグ3部)の試合の放映はどのようになっているのか?ということになりますが、当然その権利を持ち合わせているところに対して働きかける仕組みであることは想像することができます。

2番目は、久保選手、安部選手の露出を利用したプロモーションということになります。これには個人、チームの2面からの視点が必要になります。レアル・マドリードの久保選手、バルセロナの安部選手という、チームに所属している選手そのものを利用したプロモーションに企業としてもしくはブランドとして魅力を感じるのか、それともチーム名は一切出さず、サッカー選手個人としての起用が必要になるのか、という見方になります。

当然チーム名やチームロゴとの併用がわかりやすくはなりますが、ヨーロッパのトップクラブになるとこの辺りは非常に価格も高く設定されており、また同時にチームとしてトップチームに所属していない選手をメインにプロモーション使用してよいかどうかという問題も発生してきます。非常に難しい部分でもありますが、このプロモーション利用は日本企業が一番もくろむ部分でしょう。先に述べたテレビ放送が絡むことが約束されれば当然その結びつきは強くなります。

3番目に考えられる機会とすれば、これも当然といえば当然ですが、チケットの販売になります。国が違えば当然取得方法も変わってくるわけですが、セグンダBの試合を見るためにチケットを入手することが求められますし、同時に試合場所であったり、アクセスであったり、あまり表面的には出てはこない、現地ならではの情報を手にしなければならないケースもあります。

特に久保選手、安部選手のケースでいけばすべてスペイン語になりますし、特にアウェーの試合であれば英語対応していないクラブもありますから、そのあたりをどのようにクリアしていくかということが課題にはなります。セグンダBとはいえ、その試合を見ようとするメディアの方を含めチケット収入増加に加担することは間違いないと言えます。

4番目はこれもチケットにひも付けられるところで、いわゆる旅行業というセクターになります。チケット込みでのホテルの手配、観光、そして食事すべてをまとめた形でのビジネスも十分に成り立ちます。旅行業という視点から見れば、マドリード、バルセロナといった大都市・観光都市でのホームゲームはもちろんのこと、地方での試合にも十分に適用・応用が利くところがあります。

今回の日本人選手の移籍をベースに考えれば、航空券販売も含めてスペイン-日本間の行き来が多くなることは間違いないのではないでしょうか。そうなると、携帯電話やWi-Fiの対応、そして現金はもちろんクレジットカードの対応などトラベルにまつわる多くのビジネスがここには絡むことが予測できます。

そうなってくると5番目として出てきますのは当然、グッズ関連のビジネス機会です。各チームの大きな売り上げを支えているのはマーチャンダイジングになるわけで、久保選手や安部選手が試合で活躍すればするほどファンが来場し、そこにはグッズの販売がついてくるという流れです。

選手の移籍には常にビジネスが付いて動きます。

中国のウー・レイ選手がエスパニョールに移籍した事例などからもすると、インターネットを絡めた現代ならではのビジネス機会も考えられ(特に安部選手の所属するバルセロナのメインスポンサーはインターネットビジネスを手がける楽天)、さらに2部にも日本人トップ選手が加入した今季は、スペインへの注目度は必然と高くなります。日本企業サイドとしてみればその中で動きを見せるビジネスをいかに推測し、形にすることが求められるのではないでしょうか。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)