コロナ禍の中、あらゆるスポーツシーンでは無観客という形で試合が行われています。スポーツビジネスという視点から見ると、欧州だけでなく南米、中東など世界中でチケット収入が見込めないという事態が起こっているということになります。そのような中、私自身も非常に驚いたのですが、突然、日本で欧州チャンピオンズリーグ(CL)予選の放映権利を DAZNが手放したということがありました。ニュース記事を読んでいるとDAZNは2018年から2021年シーズンまでの合計3シーズンのチャンピオンズリーグの独占放映権を獲得していたが、新型コロナウイルスの影響により世界中で放映権の見直しが進む中、今季はその契約を切ったということのようです。あれだけ「CLを見るならDAZN」と宣伝していたのに! というところには大きく突っ込みたくはなりますが、今回はこの背景に見えるUEFAの狙いなどを推測してみたいと思います。

あくまでも個人的な推測ですが、この動きの裏には、この度バルセロナの会長を辞任したバルトメウ氏の発言にヒントがあるように感じます。「欧州CLに代わり、2022年の開幕を目指す欧州スーパーリーグにバルセロナ(スペイン)が参加することで合意した」と発言したことが問題になっていましたが、ここに出てくる“欧州スーパーリーグ“がヒントであると察しました。1990年代から何度も浮上しては消えていた話でしたが、ヨーロッパの主要リーグのトップチーム約18チームが参加を検討しており、時期としても2022年初頭の開幕を目指すという情報が出回るだけでなく、世界のメガバンクであるJPモルガンが60億ドル(約6300億円)もの資金調達を行うことを決定したなどというニュースもリークされています。国際サッカー連盟(FIFA)も支援していると一部報道がなされてはいましたが、ジャンニ・インファンティノ会長は即座に「興味はない」と語るなど煙に巻いています。

CLの放映権とこのスーパーリーグ構想にどういう関係が考えられるかというと、そもそものコンテンツホルダーは誰なのか?という部分がポイントになります。CLは欧州サッカー連盟(UEFA)の管轄なので、UEFAが大元の権利ホルダーになります。1955年に始まったCLの前身チャンピオンズカップは、長い年月を経て世界中の多くの企業が熱狂の渦に巻き込む力を持つこの興行に絡んできました。UEFA自体にはそこまで大きなお金が入り切っていないのではないか?と感じます。スーパーリーグ構想はUEFAが新たに白紙から組み立てることができるイベントだからです。歴史のある興行にありがちなことではありますが、多岐にわたる権利を外部に売る・手放すことにより、当然、中長期的に安定した収入につながっていくものの、ビジネスモデルとしてそれは時に刷新が必要とされる場合もあります。まさにコロナによって、新しいビジネスモデルの構築を促されているような情勢に見えるわけです。チケット収入が見込めなくなったことで、今までよりさらに価値が高まったとされる放映権。しかしながら、支払いには限界が生じるもので、最終的にその負担は私たち一般の顧客にのし掛かってきます。調べてみると、人口は世界的に増加してはいるものの、先進国の人口は目減りしており、増加しているのは発展途上国というデータもあるほどです。つまり、高額な放映権の支払い限界ポイントは下がっている状況であることが予測できます。

こういった背景から、今回のCLの予選の放映権が失われたという事象は、放映権を扱っている複数の権利保持社の中で摩擦が起きた故、末端の我々の元にそれが届かなくなってしまったと言えるのではないでしょうか。

W杯や五輪もこの先チケット収入がなければ、その補てんを考えなければなりません。唯一の頼みの綱である放映権がそのような状況であれば、この先一体どうなってしまうのか、改めて不安の念に襲われてしまいます。そして、個人的にはなんとか日本国内でグループリーグの最終節からでもCLを見られるようになって欲しい!と切に願います。