「PKの距離が短くないか?」。友人からのメールだ。ペナルティーマークからゴールラインまでの距離は12ヤード(約11メートル)。ルールは変わっていない。カメラ位置の問題かもしれないが、確かに今大会は短く感じる(気のせいですが)。

PKがクローズアップされる。PK戦4回は、すでに最多タイ。準決勝以降もあれば、1大会での史上最多になる。試合中のPKは19回。VAR導入で過去最多となった前回ロシア大会の29回には及ばないが、すでに歴代2位タイだ。

数だけではない。PK戦で大会を去ったのは日本、スペイン、オランダ、ブラジル。初のベスト8を目指した日本を除くと、いずれも優勝候補の強豪。大会の「華」が次々と失われていく衝撃は、PK戦が注目される理由にもなる。

「短く感じる」のは、成功率の低さにもある。PK戦は82年スペイン大会からで、前回まで10大会で30回行われている。成功は196本で失敗が83本、成功率は70パーセントだった。ところが、今大会は4回のPK戦で成功20本、失敗13本。実に4割近くが失敗している。数字の上からも「短い」と感じるのは無理はない。

PKは「メンタル」と言われる。重圧の中で正確に蹴れるかどうか。PK戦過去4戦4勝のドイツは18本蹴って失敗は1本だけ。4勝のクロアチアや5勝1敗のアルゼンチンが成功率78パーセントなのに対し、ともに1勝3敗のスペイン58パーセント、イングランド59パーセント。確かに、成功率は成績に直結する。

キッカーだけではない。クロアチアのGKリバコビッチは2回のPK戦で4本セーブ。同国は前回大会でもスパシッチが4本止めている。4回のPK戦で相手の成功は18本中8本だけ。半分も決めさせていない。試合中の神セーブとともに「驚異的」な数字だ。

今大会を含めて近年PK成功率が下降気味なのは、GKの技術向上も大きいという。国際連盟(FIFA)はPKセーブ率が、前回ロシア大会の25%から34%に上がったと発表。キッカーの分析はもちろんだが、思ったところに蹴らせる駆け引きも研究されている。「左に跳ぶと思わせて右に誘い、右でセーブ」という芸当。駆け引きは以前からだが、より科学的に、巧妙になった。

「思い通りに蹴らせることができる」というGKもいるし「誘われた」とコメントするキッカーも少なくない。普段試合中に蹴っているならまだしも、PK戦初体験の選手が緊張の中で百戦錬磨のGKと国の勝敗をかけて対するのだ。並の精神力では持たない。

準々決勝のフランス戦ではイングランドのFWケーンが同点に追いつくPKを外した。1次リーグではアルゼンチンのメッシも、ポーランドのレバンドフスキも失敗している。距離こそ変わっていないが、どんどんキッカーが追い詰められていくイメージがある。

94年米国大会、ブラジルとの決勝のPK戦で外して優勝を逃したイタリア代表のエース、R・バッジオは「PKを失敗することができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ」と言った。残り4試合、PKのドラマは続きそうだ。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)

モロッコ対スペイン PKを止めるモロッコGKブヌ(2022年12月6日撮影・パオロ・ヌッチ)
モロッコ対スペイン PKを止めるモロッコGKブヌ(2022年12月6日撮影・パオロ・ヌッチ)