W杯出場を決めた日本代表について、サッカーを長く取材する記者たちが独自の視線で分析する「Nikkan eye」特別編の第2回は「高まらない求心力」。

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 ハリルホジッチ監督に振り回されている。W杯に導いた夜に突然、家族の問題を打ち明けて辞任を示唆したかと思えば、一夜明けた朝食会場では「ロシア、ロシア」と目をつり上げたという。あまりの変わり身の激しさに「それなら昨日から素直に喜んでほしかった」と困惑する選手もいた。

 予選突破したが、実はそれほど求心力は高くない。周囲との距離がある一因には、かねて指摘されてきた高圧的態度がある。15年の就任直後から特に国内組を軽視。得点ランキング上位の選手を「Jリーグなら(60歳を超えた)今の私でも得点王になれる」と見下したり、負傷者が出たクラブの強化責任者を問い詰めたりした。代表合宿のたびに離脱者を“量産”してきた自身のことは棚に上げて。

 海外組にも容赦ない。昨季はクラブで出場機会を失う選手が続出。「問題ないか?」と確認して「大丈夫です」と返されると、決まって頭に血が上る。「なぜ日本人は『試合に出ていないので先発は無理です。サブにしてください』と正直に言えないんだ」。日本の慣習に納得できなかった。

 発言の一方で最終予選途中まで、試合に出ていない選手を多用。試合勘がある控え組に紅白戦でボールを回され「そんなに相手は強くない。もっとパス回しを遅く」と珍指令を出した日もあった。抜てきした選手に「結果が出なかったら使わない」と首を切るしぐさを見せたり、動きが悪かった選手を2時間も面談で詰問した日もあった。たとえ正論でも、押しつけられれば現場は息苦しい。

 この手の裏話は、主に大会敗退時に「検証」として記事化してきた。しかし、予選突破したからこそ、日本協会の田嶋会長と西野技術委員長が「ロシアまで」と続投方針で一致したからこそ、このタイミングで書く。チームが一枚岩ではないと指摘し、あげつらうのが目的ではない。本大会まで9カ月ある。少しでも監督と選手の相互理解が進めば、ロシアで躍進する可能性が高まると思うからだ。

 ハリルホジッチ監督にも信念があり、容易に反論を許さない。現役時代は週7日、朝昼晩3度の練習を自らに課し、アルジェリア代表監督時代は大統領に直談判までしてチームを強化。W杯16強に導いた。もちろん、日本にも「ハリルさんのリアクション戦術は、アジアより世界の強豪と戦ってこそ生きる」と期待する選手はいる。その中で「まだ20世紀のサッカー」と日本を上から見ている指揮官が、どんな戦術で世界を驚かすのか。楽しみにしている。【木下淳】