イラン戦後の記者会見で、森保一監督(50)が考え込んだ。今大会のこれまで5試合との違いがあるかを聞かれた時だった。いつもは丁寧に対応しつつ、あまり具体的には振り返らない。だが、この日は違った。変化を認めると「戦う姿勢を持って、入りからアグレッシブにプレーしてくれ、これまでと試合の展開は変わったかなと思います。粘り強く守備をするということと、攻撃はプレッシャーがある中、ボールをつないで前線に配球をしてくれたことでいい形がたくさん生まれた」と成熟度の深まりを実感していた。

強豪イランに3-0での圧勝劇に導いた鍵は、1試合前のベトナム戦にあったとみる。その前のサウジアラビア戦は1-0で勝利したもののボール保持率23・7%と完全に支配され、選手は疲弊した。中2日で準々決勝を戦うベトナムはFIFAランク100位の格下。今大会から参加国数が増え、優勝するには前回より1試合多い7試合を戦う。主力を休ませて強敵イラン戦が予想される準決勝に備えるのが得策に思えた。だが森保監督はターンオーバーを選ばず、FW北川以外は同じ顔ぶれを指名した。

意外に思える選択には、理由があった。「もっとたくさんの選手を代えて臨むことも考えました。(中2日で)トレーニングできない状況でしたし」と心の揺れを吐露し、続けた。「サウジアラビア戦からお互いいい連係連動の下、準備していこうと思いました」。

昨年末の代表合宿ではシーズン中の欧州組の何人かはそろわず、UAE入り後には離脱者も出た。そんな中で、チーム戦術を深めていく必要があった。現地での練習時間も暑さに慣れるために真昼にする考えもあったが、涼しい時間帯で戦術練習に時間を費やすことを選んだ。休養より連係を深めること-。これが頂点への最短かつ唯一の道だと見定めての決断だった。

イラン戦では、ベトナム戦で122本もあったパスミスが106本に減少。FW大迫の先発復帰の影響は大きいが、アジア勢との国際Aマッチ「公式戦」で39戦負けなしだった強敵を「個」よりも「連動」で崩した。DF長友は「全員本当にいい状態でした。W杯ではスペインもそうだし強いチームというのはリーグ戦より決勝トーナメントに合わせていくんですね。日本代表がアジア杯でできるようになっている。成長しているなと感じますよね」と、うなずいた。思い通りのサッカーでの勝利が疲労を感じさせず、雰囲気も日ごとに明るさを増してきた。森保監督の勝負手が奏功し、組織の成熟度がピークに近い状況で決勝の舞台に立てる。【浜本卓也】