11年アジア杯カタール大会決勝のオーストラリア戦(1-0)、延長戦で勝負を決した衝撃的なボレー弾-。日本を優勝に導いたのはFW李忠成(33=横浜F・マリノス)だった。その李が自身の経験を踏まえ、森保ジャパン優勝のカギは「日替わりヒーロー」だと語った。

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あせることのない記憶を、李はこう表現した。

「あのボレーを打つとき、1秒くらい時が止まったような感覚になった。すごく神秘的な一瞬でした」

左サイドのDF長友の動きに合わせてゴール前へ。1度はニアに走り込もうとしたが、DFがついてきたのを見てすっと引いた。「自分でも気持ちわるいほど落ち着いていた」。完全フリーの状況を作り出した。クロスが上がってからの“1秒”だった。

「向かってくるボールの縫い目が見えた。写真で、パシャッパシャッパシャッと撮ったような感じ」

自分の体のひねり具合、GKの位置、冷静に自身の中に整理されていた。

「(野球の)王さんや長嶋さんが『ホームランを打つときにはボールの縫い目が見える』と言っているのを聞いてうそだろと思っていたけど、そういう体験でした。やってやったというより、貢献できてよかったという安心感が強かった」

1次リーグ初戦で途中出場して以来の出番だった。「自分がヒーローになると思い続けていた」という力強い言葉は名言として語りぐさとなったが、その陰で結果への重圧とも戦った。

現在ではワールドカップ出場がノルマだが、アジアを制するのは難しい。11年大会もMF本田や香川、DF内田ら8人の海外組を擁したが、決勝トーナメントは接戦に次ぐ接戦。李は「最初からのチーム戦力で、決勝までいって優勝はまずありえない」と実感を込めて話す。「A代表が初めての選手や若手の選手が、大会を通じて成長することに尽きる」。

カタールとの準々決勝ではDF伊野波が後半44分に決勝点。PK戦にもつれ込んだ韓国との準決勝では、延長前半7分にMF細貝が勝ち越しゴールを決めた。「本当のスタメンじゃない選手たちが、土壇場でゴールを決めて活躍した」。そして初めてのA代表だった李が日本を優勝に導いた。

今大会、初の国際大会に臨んでいるのはGKシュミット、DF佐々木、DF冨安、MF堂安、FW北川の5人。公式戦に絞ればE-1選手権は数えないためDF室屋とMF伊東も含まれる。「(11年は)いろんな選手が日替わりヒーローになった。僕もそうだった。若い選手や、初めての選手の活躍を期待しています」。李は笑顔でエールを送った。【岡崎悠利】

◆李忠成(り・ただなり)1985年(昭60)12月19日生まれ。東京都田無市(現西東京市)出身。柏レイソル、サンフレッチェ広島を経てイングランドのサウサンプトンへ移籍。13年にFC東京へ移籍し、14年1月に浦和レッズへ。今季から横浜加入。日本代表でAマッチ11試合2得点。182センチ、73キロ。