日本代表のバヒド・ハリルホジッチ元監督が、日本サッカー協会の田嶋幸三会長と日本協会に慰謝料1円と新聞やホームページでの謝罪広告を求めた訴訟を、ハリルホジッチ氏側が取り下げたことが10日、分かった。

関係者によると、同日、東京地裁で非公開で行われた弁論準備手続きの席上、ハリルホジッチ氏の代理人弁護士から、同氏の意向が伝えられたという。その胸の内を同関係者は「(監督は)前に進みたい。争いごとは終わりにしたいということだった」などと明かした。

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解説 訴えを取り下げたハリルホジッチ氏側でさえ、この日「急転直下、えっ? という感じです」と素直に言った。フランス語が堪能で、東大卒、フランスの弁護士資格も持つ超すご腕の代理人弁護士を雇い、徹底抗戦の構えだっただけに、意外な結末だった。

契約社会のサッカー界でクビは日常茶飯事。同氏もその点はよく分かっていた。争点はクビにされたことではなく解任会見での田嶋会長の物言い。「コミュニケーション不足」という表現が人格否定にあたり、今後の指導者としての評価に影響すると訴えていたが、言いがかりに近いと見る向きもあり、かなり難易度の高い戦い方を仕掛けた。法律の世界に詳しいある関係者は「裁判として成立しない」と最初から言っていた。受けて立つ側の日本協会は、終始強気だった。

敏腕弁護士の手腕で何とかここまでこぎつけたが、途中で和解を勧めた裁判所も判決までいけば、あしき前例になると思ったのかもしれない。クビになった指導者が次々裁判に打って出る事態は不可思議で、何よりピッチで戦うサッカー界と、法廷はなじみがわるかった。

現在、監督に復帰を果たし、古巣のナントで手腕を発揮していることも決断を後押ししたはず。正直、誰もがどこかでホッとしているのではないか。そんな結末だった。【八反誠】