合言葉は「日本を勇気づけよう」。コロナ禍の中、日本代表はオランダ・ユトレヒトで昨年12月以来、296日ぶりに国際Aマッチのカメルーン戦に臨んだ。

当初、日本協会が目指した国内開催こそならなかったが、この日のカメルーン戦、13日コートジボワール戦、来月も同地で2試合を組むことができた。コロナ禍で試行錯誤しながらマッチメークを実現した日本協会の水面下の動きを探った。

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東京オリンピック(五輪)、日本代表戦…。コロナ禍で、サッカー界も他のスポーツ同様、すべての予定が狂った。森保一監督(52)にとっては、3月に五輪代表が予定していた南アフリカ、コートジボワール戦の中止が痛かった。「いずれアフリカ勢とはぜひやりたい」。指揮官の要望を受けた日本協会は、まず9月のIMD(国際マッチデー)にコートジボワールの来日を打診し、前向きな返答を得た。

もう1試合。アフリカ勢ではなく実は、タイ代表を日本に呼ぶ計画を立て、協会同士で基本合意していた。タイは西野監督が指揮を執っていることから、森保監督率いる日本代表にとっては師弟対決。当然、ファンは喜び、サッカーを知らない人の興味を引くにも十分なカードになる。国民が関心を寄せられる対戦相手を用意し、「日本を勇気づける」ためのきっかけにするつもりだった。

しかし、新型コロナウイルス対策で2週間の待機を求めた入国制限措置が壁になる。政府に問い合わせたが「特例は認められない」との返答。9月の国内での代表戦をあきらめた日本協会は「このままなら、10月、11月のIMDも実施できない」との危機感が募り、7月から欧州の合宿地を探し始めた。するとオランダ、スペイン、フランス協会から「合宿可能」の返答があった。「ホテル、グラウンド、生活面など外部との接触を極力避けられる施設」と、条件を詰めてオファーし、オランダ協会からユトレヒトを勧められ、決定した。

夏にJリーグが再開され、プロ野球も開幕した。相撲もゴルフも徐々に本来の姿を取り戻しつつある。サッカーでは東日本大震災のあった11年になでしこジャパンがワールドカップ(W杯)初優勝。国民に勇気を与え、スポーツの力を証明した。今回はサッカー日本代表がピッチで躍動する姿を見せたい。今年初の国際Aマッチは史上初の欧州組だけのメンバー構成。11月も同じ方針で、A代表と来年の東京五輪代表を同時に強化していく。

「勇気づけ」。町のサッカークラブが練習を再開するだけで冷ややかな視線を浴びる時期もあった。経営難で消滅する街クラブも少なくない。サッカーを支える多くのファミリーが苦しんだ。代表が動きだすと、街クラブの活動を理解してくれる人も、きっと増えるに違いない。小学生から大人までの大会開催も徐々に解禁されてきた。日常を取り戻すための第一歩として、今回の296日ぶりの代表戦には大きな意義がある。【盧載鎭】

◆296日ぶりの代表戦 日本は19年12月18日の東アジアE-1選手権韓国戦以来、296日ぶりの国際Aマッチ。93年のJリーグ創設以降では最長ブランクとなった。それ以前には、横山謙三監督の最後の試合となった91年7月27日の韓国戦から、ハンス・オフト監督の就任初戦だった92年5月31日のアルゼンチン戦で記録された309日ぶりがある。

<コロナ禍での日本代表をめぐる動き>

▼3月11日 3月のW杯アジア2次予選2試合の延期が決定

▼3月17日 日本協会の田嶋会長が新型コロナ感染

▼3月24日 東京五輪の1年延期が決定

▼4月1日 6月のW杯アジア2次予選2試合の延期が決定

▼6月5日 延期された3月と6月のW杯アジア2次予選を10月と11月に開催することが決定

▼7月9日 横内コーチが五輪世代を監督として指揮し、森保監督は五輪本番のみ率いることが決定

▼8月12日 10月と11月に延期されたW杯アジア2次予選を来年に再延期することが決定

▼9月11日 10月のオランダ遠征が決定