少子高齢化、元気なシニア世代が増えたためか、日本では「孫ビジネス」が活況といわれます。子に厳しくなれない親が増える以上に、孫を甘やかす祖父母が多いとも…。今回の「ニッカンジュニア」は、サッカー評論家のセルジオ越後氏(73)が祖父の立場で語ります。サッカー解説同様に辛口でもありますが、それは日本の将来を背負う子どもたちと、子育て世代を思うがゆえの優しさといえるでしょう。

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自分の子どもにはとても厳しかったのに、孫には甘くなってしまう、そんな人が多いようですね。僕は基本的に子どもも孫も、サッカー教室の教え子も、同じように接しているつもりです。叱る時には、きっちり叱ります。「かわいいから」と甘やかしすぎたら、無責任ですよ。結局、教育する立場の親(自分たちの息子や娘)に迷惑がかかってしまうと思います。

例えばレストランで、だらしない態度をとったら僕は「ちゃんと座りなさい」と叱ります。食事中のマナーも注意するし、食べ残しをしないようにも言います。あえて厳しくではなく、普通のことです。

それでも幼いうちや慣れないうちは、泣きながらテーブルの下に隠れたりします。そんな時は、そのまま放っておきます。叱った後は、こちらからはアクションを起こしません。小さな子がすねたからと「ごめん、ごめん、言い過ぎた」と、こちらから謝ったら台無しです。相手から近づいてくるのを待ちます。

孫が親に注意されても、言うことをきかない時は僕が怒ります。そこで、おじいちゃんやおばあちゃんが「まあ、いいじゃないか」とかばうと、親の言うことをきかない子になってしまう。「おじいちゃんが『いい』って言ったから」と言い訳を与えたり、「親よりおばあちゃん」と逃げ道をつくっては、親にとっては「(祖父母は)甘やかすだけで、何も解決してくれない」となります。子どもも孫も、愛情と過保護をはき違えないよう気をつけたいものです。

プレゼントもしょっちゅうはしません。誕生日とクリスマスくらいでしょうか。中1の女の子とは1年に1回、バーゲンの時期に一緒に洋服を買いに行きます。最近は「お母さんはついて来なくていいよ」と言うようになりました。母親がいると「これがいい」「あれは駄目」などと口を出すからです。これは女の子が自分で選びたい=自立しようとしているんだと感じました。もちろん服をカゴの中に入れたり出したり、鏡の前で体に当ててみたり、比べてみたり、迷い、悩んで、時間はかかります。これも教育だと、ファッションに無頓着な僕はジッと待っています(笑い)。

また、小1の男の子にとって僕は「遊びのライバル」でもあります。ヒーローものにはまる年代で、正義の味方になりたがる。僕が怪獣など悪役。でも、一発目の攻撃では僕は倒れないし、むしろ吹っ飛ばして「仲間を呼んで来い。僕は1人でも強いぞ」などと言ってみます。勝つべきヒーローも怪獣に押さえ込まれることがあると、遊びの中でも“厳しさ”を教えないと(笑い)。最後に死んだふりをすると、本人は大興奮で、世界一強くなった気になっています。

子どもというのは、ずっと勝っていても負け続けても飽きるし、簡単に勝ちを譲ると生意気になる可能性があります。バランスが大事。勝ったり負けたりしている間は泣いたりせず、一生懸命向かってきます。

孫に限らず子どもを相手にする時は、大人が子どもの目線に下がらないとなりません。僕らは子どもだった経験があるけど、子どもは大人になったことがないのだから…。精神面だけでなく、物理的にもそうです。泣いている子を抱き上げると泣きやむのは、目線が近くなるからでしょう。または大人がしゃがんで目線を合わすと落ち着きます。立ったまま話すと、見下ろされている子どもは怒られていると感じて、泣きやまないものです。

僕の場合、孫とは同居ではなく、たまに会うだけです。厳しいことも言うから「おじいちゃんは怖い人」と、思われているかもしれません。今はそれでも構わない。本人のために甘やかしすぎない方が、結局は長くつきあえると思っています。

◆セルジオ越後 ブラジル・サンパウロ生まれの日系2世で、18歳でブラジルの名門コリンチャンスとプロ契約。同国代表候補にもなった。72年に来日、藤和不動産サッカー部(現湘南)でプレー。78年から「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、延べ60万人以上を指導。その経験から「セルジオ越後の子育つ論」など子育て本も出版。93年4月から日刊スポーツ評論家。06年文部科学省生涯スポーツ功労者表彰受賞、13年外務大臣表彰受賞。17年旭日双光章を受章。H.C.栃木日光アイスバックスのシニア・ディレクター、日本アンプティサッカー協会最高顧問。