名古屋グランパスエイトのドラガン・ストイコビッチ監督が、ベンチ前から相手ゴールに仰天のシュートを決めた。

2009年(平21)10月17日、神奈川・日産スタジアムでの横浜F・マリノス-名古屋戦で、ピクシーが魅せた。

後半40分。相手選手が負傷してプレーが途切れた際、ベンチ前に飛んできたボールに右足で反応。約40メートル先の相手ゴールにワンバウンドで蹴り込んだ。

スーツに革靴で、飛んできたボールをダイレクトボレーで打ち抜いた。超E難度のスーパーゴールだった。

両手でガッツポーズしたが、この「得点」が主審に対する異議とみなされ、監督就任から2シーズン目で、初の退席処分を受けた。

この処分には「選手にこうやってゴールするんだと示したかった。相手を傷つけた訳じゃない。審判は厳格すぎる」と納得いかない様子だった。

名手として知られたピクシーの革靴シュートは、すぐに海外でも大きく報じられた。動画は一気に拡散した。

履いていた茶色い革靴は、退任する13年シーズン終盤に、本拠地の愛知・豊田スタジアムで一般公開された。多くのファン、サポーターが一目見ようと列をつくった。

おしゃれなセレブのストイコビッチ監督が履いていたのは、英国の老舗チャーチ社の高級品。映画007のジェームズ・ボンド御用達のブランドで、ピカピカ、ツルツルに磨き上げられていた。

にもかかわらず、最新素材のツルッとしたボールを、“すべらんなあ~”とばかりに、ややアウトサイドにかけた芸術的なキックで、完璧にコントロールしてみせた。

世界のサッカー史に名を刻む妖精(ようせい)が、監督になっても、そのスキルを遺憾なく発揮した瞬間だった。