モロッコが「ハリルホジッチ前監督のクビを切った男」の活躍で、強豪ベルギーを下した。MFハキム・ジエシュ(29=チェルシー)はハリルホジッチ前監督との折り合いが悪く、代表引退状態だったが、今大会前に復帰。この日のベルギー戦ではチーム2点目をアシストするなど躍動し、モロッコに98年フランス大会以来となるW杯通算3勝目をもたらした。

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「天才レフティー」ジエシュの存在感はずぬけていた。立ち上がりから積極的にシュートを放ち、前半ロスタイムにはオフサイドで取り消しとなったものの、右サイドからFKを直接ゴールに突き刺した。正確な左足のサイドチェンジから何度も好機をつくった。

そして1-0で迎えた後半ロスタイム。ルーズボールを拾って、ドリブルでペナルティーエリア右へ進入。素早く体をひねって利き足ではない右足で中央へ折り返すと、途中出場のアブフラルがダメ押し弾を流し込んだ。

モロッコのレグラギ監督は試合後「ジエシュは信じられないほど素晴らしい。『扱いにくい』と言う人も多いが、こちらが愛情や信頼を与えれば、死ぬ気になってプレーしてくれる」と手放しでたたえた。

ジエシュは今年1~2月に行われたアフリカ選手権でメンバーに選ばれず、代表引退を表明した。もともと昨年6月にケガを理由に親善試合への参加を拒否。すると当時のハリルホジッチ監督が大激怒。元日本代表指揮官は「グループを乱すヤツは呼ばない」「あいつの名前がメッシであっても呼ばない」などと以降の招集を見送っていた。

しかし、そのアフリカ選手権でチームは準々決勝敗退。大会後も調子は上がらず、国民からはハリル采配への批判と、ジエシュ復帰を求める声が高まった。ついに今年7月、モロッコ協会のレクジャ会長が強権を発動。ジエシュの代表復帰を示唆し、8月にはハリルホジッチ監督を解任した。くしくも4年前、日本が大会前に同監督を更迭して16強へと躍進。その経緯とも重なってくる。

気分屋で問題児のイメージがつきまとうジエシュだが試合後、インスタグラムに「What an afternoon !(なんて午後なんだ)」と記してベルギー戦の勝利を心から喜んだ。前指揮官から「練習したがらない、プレーしたがらない、真面目にやらない」と酷評された天才は、W杯の舞台で自分の価値を証明する。