圧倒的なドリブル突破など、プレーそのものが「戦術」と称されるMF三笘薫(25=ブライトン)。1次リーグ初戦ドイツ戦では同点弾の起点となり、スペイン戦ではゴールライン際のボールをパスして勝ち越し弾をアシスト。クロアチア戦でも8強入りの切り札として期待がかかる。

川崎市の「ぷらす鍼灸整骨院」で働く田中雅飛さん(24)は、かつて個人トレーナーを務め、ベルギーのサンジロワーズ時代に「チーム薫」の1人として支えた。馬のような筋肉と、心優しきハートを持つ日本のジョーカーの体と内面に迫った。

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「最初に触った時は、馬みたいな、しなやかさがあった」。ドイツ戦で、相手2人を引きつけるドリブルから同点弾のきっかけを生み、スペイン戦で1ミリの世界から決勝点をアシストした三笘の体は、さながらサラブレッドのようだった。20年8月から個人トレーナーを務め、現在は川崎市の「ぷらす鍼灸整骨院」で働く田中さんは言う。

馬力はあった。武器のスピードは圧倒的だった。ただ、かねて足首などに故障が多かった。三笘が求めたのは「可動域を出すこと」。田中さんは「関節も動く範囲が広くなれば、相手と接触しても、大きなけがになりにくい」。超音波治療などで、筋肉を柔軟なものに改良。足の着き方も改善。べた足ではなく、足の指と、かかとで地面を捉える方法で、強い馬体をつくりあげた。馬が合い、海外でもサポートは続いた。初の海外移籍となったベルギーのサンジロワーズで三笘、田中さん、栄養士2人の4人で「チーム薫」が結成された。

日本の左サイドをぶっち切る駿馬(しゅんめ)は、心優しかった。今年3月のアジア最終予選の同24日オーストラリア戦、同29日ベトナム戦後。ベルギーに戻ると、おもむろに「誕生日プレゼント」。田中さんへ最終予選で着用したユニホームを贈った。3月24日は田中さんの誕生日だった。昨年のクリスマスには、The North Faceのアウターをプレゼント。田中さんを含めた「チーム薫」のメンバー全員に手紙まで渡した。

そのオーストラリア戦前。三笘は、並々ならぬ決意を口にしていた。

「ヒーローにもなるし、戦犯になるか、どっちかに転ぶ試合になる」

覚悟を決めて、途中出場から2得点。文字通りヒーローとなり、7大会連続7度目の出場を決めた。

レースは続く。次はクロアチア戦。「スペースある時は自分が運んでアシストだったり。チャンスメークできると思うので、そういうところを見てほしいなと思います」。ベスト8という、新たな歴史へ向けて出走する。【栗田尚樹】