イングランドの元日は、いわゆる“クリスマス・ホリデー”の最終日。そして、恒例のリーグ戦開催日でもある。正月を祝う風習はないが、言ってみればサッカー好きな国民が、地元チームの勇姿を拝みに家族そろって「初詣」に出かけるようなもの。19年も全国各地で「信者」たちが試合会場に集う年明けとなった。

筆者が訪れた一戦は、チャンピオンシップ(2部)のブレントフォード対ノリッジ。プレミアリーグでは、巨額の放映権料を貢ぐテレビ局の中継枠に左右されて開催が翌日との2日間に別れたが、伝統の午後3時に全36試合がキックオフを迎えた、フットボールリーグ(2、4部)戦のひとつだ。

下部リーグといっても、チャンピオンシップはプレミアの一歩手前。時代の波が押し寄せてはいる。この両軍にしても、ブレントフォードはデンマーク人、対するノリッジはドイツ人と、互いに外国人が指揮官。1部リーグから遠ざかって72年が過ぎようとしているブレントフォードでさえ、20年~21年シーズンからの移転を目指して新スタジアムを建設中だ。

しかし、国際色やビジネス色が強まる傾向にあっても、やはりクラブを支えているのは地元のファン。ブレントフォードは、チェルシーはもちろん、一般的にはフルアムとQPR(現2部)よりもマイナーな、西ロンドン第4のクラブだ。今季は、24チーム中18位と、下位での年越しとなった。それでも、元日には収容人数の8割近い1万人弱の観衆を集めた。新年最初のホームゲームで観戦プログラムの表紙を飾ったのは、選手でも監督でもなく、忠誠なサポーターでもある勤続50年のクラブ・アナウンサーだった。対するノリッジのファンも、200キロほど離れたイングランド東部から駆けつけて西側のゴール裏スタンドを埋め、終盤に同点ゴールが生まれると、チームカラーの黄色い発炎筒をたいて祝ってしまう者まで現れた。

スタンドのブレントフォード陣営の中には、新年の引分け(1-1)発進を「最高のシナリオ」と喜ぶ、筆者の隣人も含まれていた。彼は、114年の歴史と、敷地の四隅にパブを持つグリフィン・パークを去り難くて仕方のない、地元ファンの1人。だが、甥っ子がノリッジの右SBとして売り出し中なのだ。そのアーロンズは、途中から左サイドをこなしながら、体を張ったブロックからセーブを呼んだシュートまで、3日後に19歳の誕生日を迎える若さながら上々のフル出場。1軍での出場機会を優先して誘いを断った経緯のあるトッテナムの他、アーセナルなどからの注目も当然と思わせた。

イングランドのサッカーというと、世界的にはプレミアが連想されるのだろう。だが実際には、ピッチの内外における底辺の広さと思い入れの強さが、この国のサッカー界を支えている。グリフィン・パークの記者席は、座ったら手首から先しか動かせないような狭さで、目の前に視界を遮る支柱はあってもモニターはないのだが、イングランドの元日らしい雰囲気を十二分に味わえる試合会場で、この西ロンドン在住者の新年も始まった。(山中忍通信員)

◆山中忍(やまなか・しのぶ)1966年(昭41)生まれ。青学大卒。94年渡欧。第2の故郷西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を時には自らの言葉で、時には訳文としてつづる。英国スポーツ記者協会及びフットボールライター協会会員。著書に「勝ち続ける男モウリーニョ」(カンゼン)、訳書に「夢と失望のスリー・ライオンズ」(ソル・メディア)など。