【北京21日=益田一弘】陸上の世界選手権北京大会が今日22日、開幕する。男子100メートル予選で高瀬慧(26=富士通)が短距離陣の先陣を切って登場する。この日はメーン会場で前日練習を実施。桐生、山県らが欠場する中で100メートル、200メートル、400メートルリレーの3種目でエース格として期待される男は、予選から同100メートルの自己ベスト10秒09を更新する。

 真ん中の4レーンに堂々と陣取った。高瀬は、号砲に合わせてスタート練習を行った。大会前日のスタジアム。低い姿勢で飛び出し、加速する。大会第1日の男子100メートル予選に唯一の出場。「日本の流れを作りたいと思う。1本目から自己ベストが出る状態にある」と、絶好調を宣言した。

 5月に向かい風0・1メートルで10秒09を記録。向かい風で日本人が出した初の10秒0台で、公認記録となる追い風2・0メートルならば9秒台が視野に入るタイムを出している。この日は「鳥の巣」のトラックをチェック。「基本的に軟らかいので、スパイクのピンが刺さって跳ね返る。走りやすい」。地面をグッと捉えるパワフルな走りにうってつけだ。

 悔しさを糧にしてきた。12年ロンドン五輪の400メートルリレーはメンバー外だった。同年6月の日本選手権200メートルで初優勝して当然、出場できると思っていた。しかし代表集合の直後に、首脳陣にこう言われた。「4継(400メートルリレー)だったら補欠、出番はない。マイル(1600メートルリレー)なら出られる。どっちがいい?」。200メートルの日本王者が五輪本番を走る前から補欠扱い。「だったら僕はマイルでいきます…」。高瀬は「納得できなかったですね。今でも思います」と当時を振り返る。

 今大会を前にした代表選手の寄せ書きには「100、200、4×100(400メートルリレー) 高瀬慧」と記した。もうリレーの補欠や、けがをした誰かの代役に甘んじる気はない。

 北京入り前には東京・銀座の美容院で勝負ヘアを整えた。大目標は200メートルでの決勝進出だが「100メートルもファイナルのチャンスがある。記録を狙っていく」と力強く言い切った。同種目の決勝に必要とされる9秒台を視野に入れて、先陣を切る。【益田一弘】