ナイキの新厚底シューズ「エアズームアルファフライネクスト%」が3月1日の東京マラソンで、大迫傑(28=ナイキ)の足元に“装備”されることが決定的となった。号砲を翌日に控えた2月29日、都内でトップ選手のシューズチェックが行われた。注目の日本記録保持者と、井上大仁(27=MHPS)は靴底の厚さ3・95センチとされる話題の新作を持参した。

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ビリからの逆転劇を狙う。2時間6分54秒の自己ベストを持ちながら、昨年9月のマラソン・グランドチャンピオンシップ(MGC)は完走者中で最下位の27位だった井上が29日、都内で約1時間の最終調整。淡々と本番への気持ちを高めた。

東京五輪の最後の1枠を巡るライバルとなるのは大迫と設楽になる。超エリート街道を歩んできた2人に対し、自分はたたき上げだ。井上は言う。

「高校ぐらいから2人は雑誌で見ていた存在。その姿を追い続けて、ここにいることができている」。

雑草魂で強くなってきた。飯盛中、鎮西学院高(ともに長崎)では父正文さん(53)の仕事を手伝い、新聞配達が日課。それが最高の自主練だった。アップダウンのきついコースを約1時間かけて配る。自然と足腰は鍛えられていった。起きるのは毎朝4時。母康子さん(58)は「配達口に腕をつっこみ、塀によっかかるように寝ていたことありました」と回想する。それは鎮西学院高の入江初舟監督(43)も当時、知らなかった。人知れず、努力をしていた。

成長の原動力は一貫している。強い相手に勝つために、自分を鼓舞してきた。高校選びも、地元・長崎で一番強い諫早は避けた。その強豪を倒すべく、鎮西学院を選んだ。結局「打倒諫早」はかなわず、全国には届かなかったが、楽ではない道を選んだ日々は、井上を強くした。目線も高くなった。当時は全国的には無名だったが、練習日誌の将来の目標には「世界レベルの選手になる!!」と記されている。入江監督は「現代に生きるハングリー男。挑戦心、向上心が強かった」と話す。山梨学院大に進んだのも、上田監督から最初にスカウトされたこともあるが、ケニア人留学生と毎日一緒に練習できることも理由にある。華麗なエリート街道を歩んできたわけではない。ただ、ハングリー精神で、地道に歩んできた。その結果が、2時間6分54秒の自己記録であり、アジア大会日本人32年ぶり金メダルだ。

ビリだったMGCから168日。屈辱を成長の糧にして過ごした。「前を向いて走ろうと東京マラソンまでやってきた」と井上。目指すは“下克上”での五輪。また一段と強くなった姿を見せる。【上田悠太】