全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)は来月1日、前橋市の群馬県庁前を発着点とする7区間(100キロ)で行われる。前回優勝のHonda、2年ぶりV奪回を狙う富士通、戦力充実のトヨタ自動車、そして九州大会を初制覇した黒崎播磨。4強の争いがし烈を極めそうだ。

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その状況で富士通は、マラソンの有力選手を起用しないで駅伝を戦う決断をした。

12月10日のエディオン・ディスタンスチャレンジ男子5000メートルで、坂東悠汰(26)と浦野雄平(25)の富士通コンビがワンツーフィニッシュと好走した。

東京五輪5000メートル代表だった坂東は7月の世界陸上オレゴン代表こそ逃したが、秋シーズンに復調した。ニューイヤー駅伝に向けて「夏しっかり走り込んで秋は順調に走れているので、良い流れできているのかな、と思っています」と手応えを得ていた。

2年前の優勝時にはスピード区間の3区を任された。区間6位ではあったが3人抜きを見せ、チームを3位に押し上げている。「3区でもう1度区間賞目指したいですね。2年前はぎりぎり先頭集団まで追いついたので、同じような走りができたら」と、トラック代表の力を駅伝に生かす。

しかし富士通は今回、中村匠吾(30)と鈴木健吾(27)のマラソンコンビをエントリーしなかった。中村は東京五輪代表で2年前のニューイヤー駅伝は、最長区間の4区でトップに立った。鈴木は2時間04分56秒の日本記録保持者で、2年前は6区区間賞とダメ押しの走りを見せた。

ところが前回は中村が4区で区間26位。2区でもブレーキがあり、4区の中村で19位まで後退した。5区の鈴木も区間10位と振るわず、14位に上がるのが精いっぱい。チームは12位に終わった。

高橋健一監督は「マラソン組に無理をさせてしまった」と起用ミスを認める。「走れているメンバーを外して、調子が上がっていなかったマラソンコンビを入れてしまったのです」

駅伝を無理して走ったためか、マラソンの2人はその後故障をしてしまう。来年は8月の世界陸上ブダペスト大会と、10月のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)、再来年はパリ五輪と続く。高橋監督はマラソンコンビを駅伝から外す決断をした。

坂東はマラソンコンビ抜きで戦うことを受けいれている。「駅伝を一緒にやれないのは残念ですが、マラソンの方で頑張ってもらいたいですし、2人がいなくても優勝できない戦力ではありません。(チーム全体が)個人の種目をそれぞれレベルの高いところでやっていますから」と。

そうなると4区が課題になるが、塩尻和也(26)と横手健(29)が候補。塩尻は順大時代にリオ五輪3000メートル障害に出場し、箱根駅伝エース区間の2区で日本人最高記録(当時)を出した。今季は1万メートルの27分台を10、11月と2度マークし、重責を十分果たす力を付けた。横手も東日本実業団駅伝4区区間賞など、勝負強さを持ち始めた。

坂東とともに東京五輪5000メートル代表だった松枝博輝(29)は、日本選手権1万メートル6位と長めの距離で進境を見せた。坂東と2人で1、3区を分担することになる。2年目の塩澤稀夕も東日本大会6区で、区間賞と1秒差の区間2位と駅伝で実績を残し始めた。十分に優勝が狙えるメンバーだ。

そしてマラソンでMGC出場資格を持つ浦野が、前述のエディオン・ディスタンスチャレンジで、故障明けながら5000メートルの自己新をマークした。浦野は2年前の優勝時は7区区間賞の選手だが、「ユーティリティー性を売りで駅伝は戦っている」と自負する選手。つまり追い風でも向かい風でも、上りでも下りでも、集団走でも単独走でも力を発揮する。

他の選手たちの状態が良ければ向かい風となる5~7区出場の可能性が高いが、1~4区の選手たちが欠場することになっても、浦野ならその穴を埋めることができる。

浦野の復活で、富士通のV奪回の可能性がかなり大きくなった。