思うように走れない期間があってよかった。そう言い切れるように、目の前のレースに挑む。

21年東京オリンピック(五輪)女子1500メートルで8位入賞の田中希実(23=豊田自動織機)が15日、オーストラリアで18日に行われる「世界クロスカントリー選手権大会」へ向け、羽田空港で出国取材に応じた。 1月15日の全国都道府県対抗女子駅伝を欠場した田中は、12月中旬から左股関節に痛みがあったと明かした。「無理に練習を再開しようとしたので、逆に長引いてしまった」。およそ1カ月ほど、ジョグしかできない期間が続いた。「すごく苦しかった」。淡々とした口調ながら、正直そうに思いを打ち明けた。

その一方で収穫もあった。「今まで以上に体と向き合う時間をとれた」。走る時の体の使い方やクセを見つめ直した。

自らと向き合った時間は、結果にもつながり始める。10日に米国で開催された室内競技会に出場し、女子3000メートルで8分45秒64をマーク。室内日本新記録を樹立した。

「自分の力の確認という意味合いで出たんですけど、そこで思った以上に走れた」

まだ手探りではあるものの、一定の手応えを得た。

2度目の世界クロカンではシニア女子10キロに出場する。「チャレンジ精神を持って、『走ってよかったな』と思えるように」という意気込みとともに、思うように走れなかった期間を回想しながら、こう言った。

「その期間が今後に生きればいいなと。成長できたと胸を張って言えたらいいなと思います」

言葉に静かな熱を込め、さらなる飛躍を期した。【藤塚大輔】