結論として準決勝がすべてを決めた。準決勝を見た段階で決勝での9秒台、10秒0台はしんどいと感じた。世界的にも準決勝を1位通過する選手はいい流れになる。大切なのは、順位とタイム。準決勝の10秒1台後半から、一気に上げるのは難しいもの。10秒0台後半なら、決勝での9秒台があったかもしれない。

坂井隆一郎(大阪ガス)には準決勝→決勝の日程がよかった。アキレス腱(けん)痛を抱えて、準決勝は武器のスタートを自重したが、後半に伸びて自信がついた。決勝も減速率がすごく低かった。スタート型は後半に抜かれるものだが、引き出しが増えた。

準決勝で足がつったサニブラウン(東レ)。ワールドランキングのポイントを考えると3本走った意味は大きい。何よりも、やめる勇気がすごいと感じる。異変を感じてスピードを緩められる。大学生などだと、走ってしまう。ここがすべてを出し切る局面か。彼にとって大切なのは、やはり世界選手権、五輪。目標の切り替えが本当にすばやい。

けいれんの理由は難しいが、我々の時代に比べて強い反発を得られるスパイクの影響があるかもしれない。速さを得られるが、リスクと背中合わせ。それは全世界共通だろう。(男子100メートル元日本記録保持者)