<第91回箱根駅伝>◇2日◇往路◇東京-箱根(5区間107・5キロ)

 新たな「山の神」の降臨で、箱根に新時代が到来した!

 20回目出場の青学大が、2位の明大に4分59秒の大差をつける5時間23分58秒で圧倒。初の往路優勝を達成した。とりわけ5区の神野大地(3年)は1時間16分15秒の驚異のタイムをマーク。5区の距離がコース変更されたため単純比較はできないが、12年に東洋大・柏原竜二(現富士通)が樹立した1時間16分39秒を超えた。今日3日の復路に、初の総合優勝を懸ける。

 視線の先に、泣きじゃくる母の姿があった。その先にいた兄は「神野大地」の旗を持ち何か叫んでいる。最後の父も絶叫していた。18キロ過ぎ、標高874メートルに達する最高地点。正念場の神野の苦しみは、50メートル置きに立つ家族の力が軽減させてくれた。返礼は左手のガッツポーズだ。

 背後からも「神の声」が飛ぶ。「20秒速いぞ」という監督車から発せられる原監督のゲキだ。3年前に柏原が樹立した区間記録(参考記録)のラップを上回っていた。「残りは死ぬ気で走った」先にフィニッシュテープ。43キロの軽量を思い切りぶつけた。

 あの「新山の神」柏原を事実上、超えた。原監督は良くて1時間17分30秒を想定。神野自身は1時間18分30秒を設定し序盤は自重するはずだった。だが思った以上に体が動く。スタート時に46秒差あった駒大・馬場を10・4キロ付近でとらえ「明らかに行ける」とGOサインを出し、一気に引き離した。

 レース前夜に欠かさぬ儀式がある。「区間賞で往路優勝」と祈りをささげた。朝食のメニューには験担ぎで串団子3本も入れた。準備万全。ところが出走直前の招集所でハプニングが起こる。コールされた名前は「ジンノ」…。「まじかよ訂正しないのか…」。こうなれば力走で「カミノ」をアピールするしかない。発奮材料にもなった。

 陸上を始めた中学時代は当時駒大の宇賀地(現コニカミノルタ)の走りに憧れ駒大志望。だが高校時代は、3年時の高校総体5000メートル敗退が唯一の全国舞台だった。青学大入学直前の合宿で久保田らと「4年生で3冠を取ろう」と約束。その入学時は30キロ台で今も軽量だが「神野は陸上が人生の全ての模範生」と原監督が話すように、頑丈な体を作り上げた。合宿所の応接室を改造したストレッチルームで、いの一番に汗を流すのが神野だ。

 「自分は勉強が出来ない。陸上が出来なくなったら人生が終わる。人生のために走っているんです」。いちずな男が、箱根で山の神になった。将来の夢は20年東京五輪。また1人、日本マラソン界に頼もしい男が希望の星となって現れた。【渡辺佳彦】<神野大地アラカルト>

 ◆生まれ

 1993年(平5)9月13日、愛知県津島市出身。神守中-中京大中京高。青学大では総合文化政策学部に在籍。

 ◆名前

 名前の「大地」は、父敏道さんが88年ソウル五輪競泳男子100メートル背泳ぎ金メダルの鈴木大地氏にあやかって命名。

 ◆スポーツ歴

 小学生時代は6年間、野球。中学では野球(土日のみ)と陸上を並行し、3年から陸上に専念。

 ◆駅伝

 箱根は前回2区で区間6位。出雲は2年時に6区4位、全日本は2年時に2区6位、3年時は8区3位。

 ◆自己ベスト

 自己ベストは5000メートル14分4秒58、1万メートル28分41秒48。ハーフマラソン1時間2分42秒は青学大記録。

 ◆好きなタイプ

 AKBは好きではないが前田敦子は好き。

 ◆家族

 父敏道さん、母恭子さん、兄翼さん。

 ◆有名になりたい

 高校時代は入れ替わりで3学年上に浅田真央、2学年上にプロ野球の広島堂林、1学年上にサッカー宮市(オランダ1部トウェンテ)、1学年下に村上佳菜子。「僕の代は僕が一番有名です」。

 ◆サイズ

 164センチ、43キロ。足のサイズ25・5センチ。体脂肪率4・9%。血液型AB。<5区歴代ベスト10>

 2位:柏原竜二(12年東洋大)1時間16分39秒

 3位:柏原竜二(10年東洋大)1時間17分08秒

 4位:柏原竜二(09年東洋大)1時間17分18秒

 5位:柏原竜二(11年東洋大)1時間17分53秒

 6位:今井正人(07年順

 大)1時間18分05秒

 7位:駒野亮太(08年早

 大)1時間18分12秒

 8位:今井正人(06年順

 大)1時間18分30秒

 9位:キトニー(15年日

 大)1時間18分45秒

 10位:設楽啓太(14年東洋大)1時間19分16秒【注】中継所が変更して最長区間となった06年以降。コース変更により、14年以前は参考記録で15年以降が新規記録

 ◆最近の箱根「勝利の方程式」

 5区が最長区間となった06年大会以降、昨年まで9年連続して、5区の区間賞獲得校が、そのまま往路優勝している。さらにそのうち6校が、総合優勝に結びつけている。過去のデータから青学大の総合優勝確率は67%。だが2位以下との大差を考えるとグーンとはね上がりそうだ。

 ◆コース変更

 5区で通過する箱根の函嶺洞門が14年2月から通行止めとなり、その脇に開通したバイパスを今回から走行。距離にして約20メートル延びているという。昨年9月に関東学連が距離を計測したところ、5区は前回大会までは23・4キロとされていたが、今回は23・2キロとなっている。別ルートとなるため、前回までの記録は参考扱い。