サッカーは何が起きるか分からない。そう思ってはいたが、この展開は予測を超えていた。前半6分、コロンビアの選手が退場処分を受けて、日本にPKによる1点が転がり込んだ。開始早々、強国の高いハードルが、一気に目線の位置まで下がったのだ。まるで西野ジャパンに神様が舞い降りたようだった。

 日本の技量が急に増したわけではない。中盤で主導権をつかみ、出足鋭く前へ。その心意気が神様を引き寄せたように思えた。強敵にも気後れせずに、自分たちのできることをアグレッシブにやれば、こんなことが起きるのだ。それはどこか人生にも重なって見える。つくづくこのスポーツのメンタルの重要性を思い知らされた。

 これが開幕2カ月前の監督交代という荒療治の効果かどうかは分からない。ただ、大会直前のパラグアイ戦から迷いが吹っ切れたように選手の動きがよくなり、本来のサッカーが息を吹き返した。緊急登板後、ふがいない試合にも「危機感はまったく感じていない」と言い続けた西野監督の選手への強い信頼が、自信を回復させたのかもしれない。

 97年W杯アジア最終予選の日本代表を思い出した。負けられない重圧に選手の動きが重くなり、2戦目から勝てなくなった。解任された加茂周監督を引き継いだ岡田武史監督も2戦未勝利。ついにUAEと引き分けてW杯自力出場の可能性が消えた。岡田監督は1度はメンバーの入れ替えを考えたが、2日間悩んだ末に思いとどまった。

 「選手には自信を持って戦えと言い続けてきた。ここでメンバーを替えると、自分の言葉を否定することになると思った」。監督の覚悟は選手の動きも変えた。次戦のアウェー韓国戦。守備的戦術の予想を裏切り、日本は開始から攻めた。名波がわずか1分で先制点を決めるなど2-0で完勝した。そこから3連勝してW杯初出場をつかんだ。

 西野ジャパンの初戦勝利は決勝トーナメントを保証してくれるものではない。コロンビア戦だって1人少ない相手に前半は随分と苦労して、『どうだ』と胸を張れる内容ではなかった。まだまだ手ごわい強敵も残っている。何しろサッカーは何が起きるか分からないのだ。ただ、たった1試合でチームが変わることもサッカーにはよくある。しぼみかけていた日本の空気が熱を帯び、上昇気流に乗ったことは間違いない。【首藤正徳】