スポーツの大記録の誕生には、よきライバルの存在がある。
15日、陸上の世界選手権(東京・国立競技場)で行われた男子棒高跳び決勝で、3連覇を達成したアルマンド・デュプランティス(25=スウェーデン)が、6メートル30の世界新記録を出した直後、銀メダリストのエマヌエル・カラリス(25=ギリシャ)と真っ先に抱き合う姿を見ながら、あらためてそう思った。
世界記録を14度も更新したデュプランティスの強さが際立ったが、パリ五輪銅メダリストのカラリスも予想以上に食い下がった。
6メートルを1回で成功させて2人だけの一騎打ちになると、カラリスはバーを6メートル20まで上げてイチかバチかの勝負を挑んだ。失敗はしたが、無敵の王者に最後まで心理的な重圧をかけ続けた。
「6メートル20まで私以外の選手がいたのは初めてだった。エマヌエルの強い追い上げに大きな刺激を受けた。私から最高のパフォーマンスを引き出してくれた」。 試合後のデュプランティスのコメントを聞いて、ライバルの執念が、彼の中にまだ眠っていた能力を引きずり出し、大記録へと導いたのだと確信した。
34年前、同じ東京で行われた91年の世界選手権でも、ライバル同士の死闘の末に生まれた歴史的な大記録を目撃した。男子走り幅跳び決勝。65連勝中の王者カール・ルイスと、2カ月前の全米選手権で1センチ差でルイスに敗れているマイク・パウエル(ともに米国)との一騎打ちである。
4回目にルイスが追い風参考ながら世界記録を1センチ超える8メートル91の大ジャンプで優勝を決めたかに思われたが、これに発奮したパウエルが5回目に8メートル95の世界新記録で逆転、ついに金メダルを手にした。
「ルイスとの勝負は2人だけのヘビー級タイトルマッチのようなもの。KOするしかないと思っていた」というパウエルの言葉が印象的だった。この記録は34年たった今も世界記録としてレコードブックに刻まれている。
スポーツにおけるよきライバルは、実は敵ではなく、お互いを高め合う味方なのだ。
「これから6メートル40を見据える」とさらなる挑戦を口にしたデュプランティスに対して、カラリスはこう言った。
「モンド(デュプランティスの愛称)と同じ、この素晴らしい棒高跳びの時代に生きていることを幸せに思う。彼は誰もが自分を信じれば偉業を達成できることを確信させてくれた。彼を友と呼べることを誇りに思う」。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「スポーツ百景」)






