9月1日から3日まで、長野県南牧村で行われたスピードスケート・ショートトラックの全日本距離別選手権を取材した。

 3大会ある18年平昌五輪代表選考会の初戦。今季から担当となり、大会初取材の私にとっても数多くの発見があった。見慣れたファンの方には「当たり前だ」と言われるかもしれないが、ここに勉強中の身で感じた魅力を記してみたい。


渡辺啓太(2017年9月2日撮影)
渡辺啓太(2017年9月2日撮影)

■目まぐるしい攻防で転倒者続出

 ショートトラックは1周111・12メートルのコースを、タイムではなく着順で争う。そのため、会場で観戦すると駆け引きの面白みがダイレクトに伝わってきた。500メートル、1000メートル、1500メートルと個人は3種目があり、500メートルは序盤からの位置取りが大きく物を言う。1000メートル、1500メートルは中盤からの駆け引きで接触し、転倒者が出ることも多々。前回のソチ五輪でも次々と選手が転び、目まぐるしく順位が変動した。そんなハプニングが付き物だけに、観ている者は最後まで目が離せない。

 リンク脇にはコーチが陣取るエリアがあり「来るぞ!内から」「まだ我慢しろ!」など大声の指示が飛ぶ。昨季の全日本選手権で男子総合優勝を果たした渡辺啓太(25=阪南大)は、以前から「もっとショートトラックの面白さを、たくさんの人に知ってほしいんですよね」と話していた。この3日間も競技終了後に、記者席から見えた駆け引きの様子と、実際滑っている者の感覚を丁寧にすりあわせてくれた。

 「内から来たぞ!」。そんなコーチの注意の声にも、実際に滑る選手は繊細に思考を巡らせる。内側から追い抜いてくる選手を封じるには、妨害のない程度に自分の滑りを内側に寄せるのが一般的。だが、指示の声でただ内側に寄せれば良いものでもないという。

 「後ろのスピードと自分のスピードを考えるんですよね。もし(前を滑る)自分が内に入っても、相手が来なかったら、自分のスピードを落とされただけになるんです。それが何度も続くと脚(の体力)も使う。自分のコーチの声だけはしっかりと聞いて、後ろに目があるような感覚で、様子を探りますね」

 逆に後ろから追う際には、わざと氷を蹴って音を出すことで、前に判断ミスを誘うこともある。強い選手は静かにピタリとつき、気付かれないように追い抜く機会をうかがう技術も持ち合わせる。「音」を楽しむのは現地で見る醍醐味(だいごみ)の1つだ。



菊池萌水
菊池萌水
菊池悠希(2017年9月2日撮影)
菊池悠希(2017年9月2日撮影)
菊池純礼(2013年9月7日撮影)
菊池純礼(2013年9月7日撮影)

■「菊池」4姉妹で狙う五輪切符

 選手の話題も多くある。大会3日目の女子1000メートル準決勝の第2組。5人が出場し、上位2人のA決勝進出を目指す戦いで同じ「菊池」の名字が3人も並んだ。3レーンが萌水(25=稲門スケートク)、4レーンに悠希(27=ANA)、5レーンが純礼(21=トヨタ自動車)。3人は姉妹で、悠希が三女、萌水が四女で純礼が五女。結果的に1着に純礼、2着に萌水が入ったのだが、父毅彦さん(61)が「『この子』っていう応援の仕方はしない。第三者みたいな気分ですよ」と苦笑いするのも無理はない。

 

吉永一貴(2017年9月2日撮影)
吉永一貴(2017年9月2日撮影)
神長汐音(2017年9月2日撮影)
神長汐音(2017年9月2日撮影)

 3日間の総合成績では純礼が1位、悠希が3位、萌水が9位と五輪へ上々のスタート。ちなみにスピードスケートでは次女の彩花(30=富士急行)が2度目の五輪に向けて奮闘中で、目標とする姉妹4人での五輪同時出場を果たせば日本初の快挙だ。男子総合1位の吉永一貴(18=愛知・名経大市邨高)と女子総合2位の神長汐音(17=長野・小海高)はいずれも高校3年生。男子総合2位の坂爪亮介(27=タカショー)は昨季から強豪の韓国でもまれ「日本だったら切ってもらえるんですが、散髪も自分でしています。バリカン使って、右と左のバランスを合わせて…」と苦労する1人暮らしで力を高めてきた。


■98年長野五輪以来のメダルへ

 競技の認知度を高めるために結果が必要なことは、関わる誰もが自覚している。五輪は98年長野大会男子500メートルで金メダルの西谷岳文、同じく銅メダルの植松仁以来、メダルがない。9月下旬にはW杯ハンガリー大会が開幕。それを含めたW杯4大会で、男女それぞれ最大5枠の五輪出場権を日本に持ち帰れるかがカギになる。

 日本では9月8日から3日間、長野・帝産アイススケートトレーニングセンターでW杯派遣選手選考競技会が行われる。W杯での五輪枠取りを経て、平昌五輪で日の丸を背負う選手が決まるのが12月の全日本選手権(愛知・日本ガイシアリーナ)。五輪をより楽しむため、今からの情報収集と「推しメン」の発掘はいかがでしょうか。【松本航】

 ◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。兵庫・武庫荘総合高、大体大とラグビーに熱中し、13年10月に大阪本社へ入社。プロ野球阪神担当を経て、15年11月から西日本の五輪競技を担当。現在はショートトラックとフィギュアスケートを中心に取材。