6勝5敗。平昌五輪カーリング女子で、銅メダルを獲得したLS北見の通算成績だ。英国との3位決定戦は瞬間最高視聴率42・3%(関東地区)。土曜日のゴールデンタイムとはいえ、フィギュアスケート男子羽生結弦が五輪連覇した同46・0%に迫る数字だ。なぜ、これほど注目されたのか。「もぐもぐタイム」や北海道弁「そだねー」という話題もあったが、それだけではないだろう。その鍵が6勝5敗の数字だ。

 冬季五輪は、切ない。天候や風に左右される。女子ジャンプは2回のジャンプで合計20秒もない。スピードスケート女子500メートルは40秒足らず、フィギュアスケート男子でも7分強だ。膨大な時間をかけて準備しても、わずかなミスが命取りで、運不運もある。夏季五輪に注目度で及ばない中で次は4年後だ。見ている側も、緊張を強いられる。

 カーリングは、1試合が2時間半~3時間と圧倒的に長い。氷の変化や石の癖などの要素があり、ビハインドでも、相手のミスで、いきなり逆転がある。いかにも「棚ぼた」にみえるが、そうではない。4、5点も離れていると逆転できない。相手に「この一投が完璧でなければ、試合がひっくり返る」というプレッシャーがかかるような僅差で、粘ることが重要なのだ。

 それは大会を通しても同じだ。1次リーグだけで9試合。どんな強豪国でも「全勝通過」はほぼない。負けても、巻き返せば、生き残れる。男子金メダルの米国は、1次リーグでSC軽井沢クに2-8の大敗。一時は2勝4敗と追い込まれたが、そこから巻き返して頂点に立った。通算7勝4敗。金メダルに輝いたチームでも4敗している。

 勝ったり負けたりを繰り返すカーリングは、冬季五輪で異質だ。瞬きもできないような緊張感がスポーツの醍醐味(だいごみ)ではあるが、4年に1度の五輪はそんなシーンの連続だ。洪水といってもいい。「負けたけど、明日があるよ」「そだねー」といえる競技はあまりない。「肩の力を抜いて楽しめる」という意見は、つまり「1度のミスですべてが台無しになるわけじゃない」という、カーリング独特の空気感によるもの。それは、ミスが許されない冬季五輪で、見る人を引きつけるのだろう。

 記者は、ソチ五輪前の13年からカーリングを取材するようになった。最初は試合時間が長いし、ルールも戦略もよくわからなかった。試合中の居眠りも1度や2度ではなかった。平昌五輪では男女合わせて50時間以上、試合を見た。眠くなかった。たぶん、カーリングが好きになってきたんだと思う。【益田一弘】