衝撃のラストスパート、フェルプスの後継者、鉄の女。日本水連は9日に世界選手権(7月、韓国)代表17人を発表した。同選手権で金メダルを獲得すれば、東京オリンピック(五輪)代表に内定する。日本の金メダル候補は男子平泳ぎ渡辺一平、同個人メドレー瀬戸大也、女子個人メドレー大橋悠依の3人といえるだろう。その3人には強力なライバルがいる。

<1>男子200メートル平泳ぎ 渡辺のライバルは同じ97年生まれのアントン・チュプコフ(ロシア)。自己ベストは渡辺が世界記録2分6秒67、チュプコフが2分6秒80と接近している。得意なレースも対照的だ。渡辺は同じペースで泳げる特長を生かした先行型、チュプコフはラスト50メートルで31秒台を出すスパート型。16年リオ五輪は渡辺が6位、チュプコフは銅メダル。17年世界選手権は渡辺が銅、チュプコフが金。渡辺は7日の日本選手権でセカンドベストの2分7秒02を出したが「このタイムでは世界選手権で金メダルはとれない」といった。その言葉は謙遜ではなく、まぎれもない事実だろう。

<2>男子400メートル個人メドレー 瀬戸は16年リオ五輪、17年世界選手権、18年パンパシフィック選手権で銅メダル。その3大会で瀬戸を上回ったのが同じ94年生まれのチェース・ケイリッシュ(米国)だ。米国では怪物フェルプスの後継者として期待される。ケイリッシュの自己ベストは4分5秒90。この数字は瀬戸の4分7秒99、萩野の4分6秒05を上回っている。16年リオ五輪は金の萩野を猛追したが、銀メダル。無念を晴らす舞台を東京五輪と定めて、リオ後は主要国際大会で瀬戸と萩野に連勝中。3種目目の平泳ぎが得意で驚異的なスピードで巻き返してくる。しかも苦手だった前半のバタフライ、背泳ぎも強化。瀬戸が「頭のねじをぶっ飛ばしたい。『ばかじゃないか』という練習をしないと」と危機感を持つようになったライバルだ。

<3>女子個人メドレー 大橋に立ちはだかるのが「鉄の女」カティンカ・ホッスー(29=ハンガリー)だ。大橋の自己ベストは200メートルが2分7秒91、400メートルが4分30秒82。ホッスーは200メートルが2分6秒12、400メートルが4分26秒36でともに世界記録。個人メドレーは16年リオ五輪で2冠、世界選手権は15年から3大会連続2冠。圧倒的な実績を誇る。ただ大橋は17年世界選手権で200メートル銀メダルの際に、ラスト50メートルの自由形で先行するホッスーとの差をつめていた。ホッスーの世界記録は200メートルが4年前、400メートルが3年前のもの。「鉄の女」の壁を破るのは簡単ではないが、チャンスはある。

日本は17年世界選手権で金メダルなしだった。五輪前年の世界選手権は、海外勢も4年に1度の祭典を見据えて力を入れてくる。ライバルたちを打ち破れるか、3人の爆発に期待したい。【益田一弘】


◆益田一弘(ますだ・かずひろ)広島市出身、00年入社の43歳。大学時代はボクシング部。五輪取材は14年ソチ大会でフィギュアスケート、16年リオ大会で陸上、18年平昌大会でカーリングなどを取材。水泳は16年11月から担当。