<フィギュアスケート:世界選手権>◇26日◇さいたまスーパーアリーナ

 ソチ五輪金メダリストの羽生結弦(19=ANA)が、まさかの3位発進となった。凱旋(がいせん)となる舞台で、4回転ジャンプで転倒して91・24点。98・21点の自己ベストでトップに立ったソチ五輪5位の町田樹(24)らに及ばなかった。今大会を制すればGPファイナル、五輪を含めた3大タイトル制覇となる。01-02年シーズンのアレクセイ・ヤグディン(ロシア)に続く2人目の“3冠”、大会初優勝をかけて28日のフリーで逆転を狙う。

 若き五輪王者は、いるはずでなかった壇上の「3番目」の席にいる現実に、その本性をむきだしにした。トップ3が並んだ会見席で羽生は「ミスをしてしまって3位。ここにいる自分が許せない」ときっぱりと言った。王子様のような風貌からは想像がつかない、人一倍の負けず嫌い-。

 その直前にも、その性格をあらわにした。ソチ五輪で得たものを聞く英語での質問に対して、1位の町田が日本語で答えたのに対し、マイクを握った羽生は「I

 was

 not

 happy…」と話し始めた。3位と1位。1つの答えですら相手に負けないような意気込みをのぞかせた。答え自体は「すいません、妥協します」と照れ笑いで途中からは日本語で答えたが、10代として66年ぶりの金メダリストになった19歳の強さの源を感じさせる場面だった。

 「自分を許せなかった」要因を作ったのは過信だった。「五輪チャンピオンという肩書のプレッシャー」が過信を生み、気の緩みを生んだ。そこから生じた「ちょっとした誤差」。今季7回の演技で1度もミスがなかった冒頭の4回転トーループで前のめりに手をついての転倒は、その誤差から起きた。

 その瞬間、会場はそれまでの熱気とは一転、凍り付いた。五輪王者の凱旋を見ようと詰め掛けたのは、1万6913人の観客。「ユヅ!」のかけ声を始め、演技開始直前には「ユヅ、愛してる!」という声までもが響き渡る。転倒後はミスなく滑りきって「特に影響はなく、楽しく滑れた」と振り返ったが、独特の雰囲気に会場は満たされていた。

 首位の町田との差は約7点。現行の採点法になった05年以降の世界選手権で、フリーでの逆転は1・70点差をひっくり返した09年大会のみ。昨年までの9大会で8度が逃げ切り勝ちと状況は厳しい。だが、その差を聞かれた負けず嫌いの一言は「楽しいです、すっごい楽しいです!」。金メダリストになった以降も「追いかけられる立場ではない。僕はいつでも追いかけていたい」とことあるごとに口にしてきた。チャレンジャー精神はうずく。

 明日28日のフリーまでには1日時間をおける。「気持ちの整理をつけてしっかりと頑張りたい」。ソチではフリーで2度の転倒があり、金メダルにも悔しさを募らせた。だからこそ、追いかける立場から狙うは大逆転勝利。かなえれば、また1つ称号を手にできる。【阿部健吾】

 ◆羽生のソチ五輪VTR

 2月6日に新種目の団体SPに登場した。97・98点で憧れのプルシェンコ(ロシア)を上回って全体の1位となった。同13日の男子シングルSPでは完璧な演技を披露し、国際スケート連盟(ISU)公認大会で史上初の100点超えとなる101・45点をマークし首位発進。翌日のフリーではジャンプに2度失敗してSPとの合計280・09点。ただライバルのチャン(カナダ)がミスを連発。SPの貯金が生きて、欧米人以外で初の金メダリストになった。同種目で10代の五輪王者は66年ぶり2人目の快挙だった。