男子73キロ級で連覇を果たした秋本啓之(29=了徳寺学園職)は「ずっと崖っぷちから、結果が出せてよかった」と話した。決勝の相手は急成長の安昌林(21=韓国)。筑波大の後輩で、2年前には付き人だった選手だ。「組んだ瞬間、成長したなと思った。楽しみですね」と話したが、負けるわけにはいかなかった。

 10年世界選手権王者の秋本だが、リオデジャネイロ五輪の代表争いは厳しい。今年8月の世界選手権に優勝した大野将平(23=旭化成)が1歩リードし、元世界王者で12年ロンドン五輪銀メダルの中矢力(26=ALSOK)が続く。秋本は「希望の光は小さい」と話すが「だからこそ、見ている限りは追いかけるのが自分の使命」とも言う。

 1分28秒に背負い投げで技ありを奪うと、その後は若い安の猛攻に耐えて逃げ切った。「もっと前に出たかったけれど、勝負に徹した。今は内容よりも結果が大切なので」と秋本。金メダルをかけると、スタンドで応援してくれたロンドン五輪バレーボール銅メダリストの愛夫人(33、旧姓大友)と3人の子どもたちに手を振った。

 井上康生監督は、秋本の「あきらめずに戦う姿」に目を細め「意地を出してしがみついてくる。大野がリードしているが、まだまだ分からない」と言った。さらに、合宿などでのベテランの姿を絶賛し「全日本にとって、プラスになる男。苦しくても声を張り上げ、先陣を切ってトレーニングをしている。柔道家としても、人間としても魅力がある」と褒めちぎった。

 「(秋本を)引退させるつもりで戦った」と話す後輩の安を破り、代表争いに残った秋本。「まだ立場は変わらない。とても(五輪出場は)厳しいけれど、あきらめず、目標に向かってやりきる」と、力強く話していた。