山本草太(20=中京大)が逆転優勝した。「黒い瞳」を舞った前日のショートプログラム(SP)は77・07点の2位。「このままでは終われない」と迎えたフリーでは「ドラゴン」を演じて144・15点。合計221・22点で巻き返し、頂点に立った。

冒頭の4回転サルコー。バランスを崩しながらも決めると、4回転トーループ-2回転トーループは文句なしの成功。トリプルアクセル(3回転半)-1回転オイラー-3回転フリップも我慢した。その後は一転してジャンプに苦しんだ。4回転トーループ転倒、3回転半は両足着氷から両手を突き、3回転ループも転んだ。最後のルッツ-トーループの連続3回転ジャンプも、ルッツが踏み切り違反の疑い、トーループが4分の1回転不足。辛くも最後まで乗り切った。

「後半の4回転トーループをこけてから、軸の取り方がずれてしまって。跳ぶ前から、練習では降りているのに怖いと思うくらい緊張して。それでも前半は何とかそろえられたので、後半も、体が動かない中で何とか踏ん張れた。『勝ちたい気持ち』があった。去年の西日本は2位。『絶対に勝つんだ』という強い気持ちがあった」

ここまでの演技ではスピンのレベル取りこぼしもあった。「体力がきつくなっても今回そこは意識しようと。スピン、ステップすべて(最高評価の)レベル4をそろえられたので、その0・何ポイントの積み重ねで勝ち切れた」。スケーティングにも胸を張った。

表彰式後のオンライン取材。勝因として繰り返したのは「勝ちたい気持ち」だった。強気に、有言実行で結果を出せたのは、いつ以来だろうか-。少し考え込むと「僕がジュニアのころとか、結果を残せていたころのスタンスに近い」と思い出した。14年ジュニアグランプリ(GP)ファイナル銀メダル、15年世界ジュニア選手権3位、16年にはユース五輪(ノルウェー・リレハンメル)では金メダルを獲得し、日本の将来を担う人材として、もてはやされた。

ところが、16年の3月と7月に右足首を骨折するなど3度の手術を経験。一時は引退も覚悟し、ジュニア時代から4回転ジャンプを跳んできた男が、17年に1回転から跳び直して、ここまで状態を戻してきた。

「けがをしてから結果を取る自信を失っていた。でも最近は、自分に自信を持てるようになってきて、怖いものがなくなってきた。自信を失っていたんですけど、ここまで戻せた。たくさん悔しい思いをして、今も険しい道のりの途中かもしれないけど、練習でも絶対に諦めない気持ちでやってきた」

サルコー、トーループの2種3本の4回転ジャンプに3回転半2本。「勝ちたい気持ち」を込めた構成で西日本を逆転で制し、あらためて復活を印象づけた。

西の王者として12月の全日本選手権(長野)へ。「どの選手が出てくるのか、どういう大会になるのか想像つかないけど、西日本でトップを取れたので『勝ちたい気持ち』を大事に挑みたい」。怖い存在と思われれば、以前の輝きを取り戻すだけでなく、過去以上に光っていることの証明になる。期待された18年の平昌オリンピック(五輪)は逃したが、22年の北京五輪へ「諦めない」「逃げない」ことだけは約束する。【木下淳】