錦織3世が、ようやく本領発揮だ。錦織圭と同様に、日本テニス協会の盛田正明名誉顧問が設立したテニス基金(MMTF)の援助で米フロリダのIMGアカデミーに留学していた中川直樹(23=橋本総業)が、初の決勝に進出した。

18年全日本複優勝の今井慎太郎(27)に7-5、6-4の2時間13分でストレート勝ち。「優勝するために出場した」と、初の全日本タイトルに意欲的だ。

13歳で、MMTFの留学制度に合格。錦織が今でも拠点とするIMGアカデミーに留学し、盛田氏に「錦織を上回る才能」と言わしめた。MMTFは、1年間で実力に見合った目標を設定。それをクリアできなければ、即刻、奨学金は打ち切られる。それを毎年クリアし、卒業したのは、錦織、西岡良仁、そして中川の3人だけで、ついた愛称は「錦織3世」だった。

14年11月には、盛田氏とともに日本で華々しくプロ転向会見を開き、まさに将来は希望の光だった。しかし、右肘を痛めて、約1年間、ツアーから離れると、18年には右手首の腱(けん)を脱臼し手術を受けた。皮肉なことに、2つのけがともに、錦織と同じ箇所で、2つ目の右手首のけがは全く同じだった。

ようやくすべてが整いつつあった20年、今度は新型コロナウイルスが襲った。しかし、中川はそれを逆手に取り、自粛期間、家にトレーニング機器を持ち込み、筋トレに励んだ。ジュニア時代は食べても太らないのが悩みだったが、今は、がっしりした体つきでショットにパワーが備わった。

ジュニア時代から全日本のタイトルになぜか縁がない。「優勝して、少しでも日本のトップに近づきたい」。会場には、恩師、盛田氏の姿が見えた。23歳は、まだまだ再スタートができる年齢だ。初の全日本タイトルを狙い、ここから世界に羽ばたく。【吉松忠弘】