ラグビートップリーグ・ヤマハ発動機は9日、元日本代表FB五郎丸歩(34)が今季限りで現役を引退することを発表した。

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あるスポーツが人気を博すとき、そこには象徴となる選手がいる。ラグビーでその役目を担ったのが五郎丸だった。15年W杯イングランド大会後、日本中の子どもたちが「五郎丸ポーズ」のまねをした。19年W杯日本大会の成功も、ラグビー関係者は「(15年の)南アフリカ戦の勝利があったからこそ」と語る。歴史の転換点となった15年9月21日、中心に五郎丸がいた。

帰国後、人気から外に出ることもままならなくなった。スターで居続けることが使命になった。テレビに出演し、CMに起用された。大会前には宮崎での長期合宿を行うなど「いろんなものを犠牲にしてきた」と話したが、大会後はさらに自身の自由を削った。19年W杯では現役選手でありながら、NHKの大会アンバサダーも引き受けた。

「五郎丸ポーズ」はもともと、揺るがない集中を作るためにメンタルコーチと二人三脚で作りあげたルーティン。裏を返せば、本来は繊細で情に厚い男だった。南アフリカ戦でトライを決めた時には喜びを爆発させ、敗退が決まった米国戦後は涙も見せた。日本が初めてスーパーラグビーに参入した際に海外クラブ挑戦を選んだのは、息子ら家族との時間を増やすことが理由の1つだった。“スター”として一手にラグビー人気を背負っていたのは、人間味に満ちた1人の父親だった。

19年日本大会で日本代表が宿泊したホテルの壁には、日本代表を支えてきたレジェンドたちのポスターが飾られていた。15年W杯の立役者として、五郎丸の姿もあった。「ブライトンの奇跡」から約5年。希代のプレースキッカーが、ラストシーズンを迎える。【岡崎悠利】