20歳佐藤翔馬(東京SC)が、日本新記録の2分6秒40で代表に内定した。150メートルまで世界記録を上回るペース。チュプコフの2分6秒12までわずか0秒28差だった。北島康介氏と同じ東京SC育ちの新星が五輪金メダルの視界に捕らえた。武良竜也(24)が自己記録2分7秒58の2位で初の五輪切符。前世界記録保持者渡辺一平(24)は、3位で五輪出場がなくなった。

笑顔が一転して泣き顔に変わった。日本新で五輪切符を得た取材エリア。佐藤は、感謝を伝えたい人を聞かれて「家族と(西条)コーチ。家族はいつも送り迎えしてくれて…」。そこで言葉につまった。小さく「オレ、泣きそう」と言って左手で顔を押さえた。指の間から涙が落ちた。「『いつもありがとう』という感じです」といって泣いた。

世界レベルの決戦。150メートルまで世界記録を上回った。視界にはライバルはいない。「ラスト15メートルは死ぬ気で泳いだ」。自己記録を0秒66大幅更新。渡辺らを打ち破り、チュプコフの記録に0秒28差。北島康介氏と同じ名門・東京SC育ちの20歳は「康介さんも金メダルをとっているので、しっかり金を取りたい」。

幼稚舎から慶応一筋。福沢諭吉の言葉に「先ず獣身(じゅうしん)を成して後に人心を養え」。獣身=健康な肉体が基本という考え。4代続く医者の家系で、母純子さんは「まず運動を優先してやらせていた」という。野球、サッカー、陸上、体操の中から、本人が選んだのが水泳だった。

高校進学時に「水泳をするなら他校でもいいよ」と言われたが、文武両道を選んだ。コロナ禍の前は、午前4時50分に起床。練習→学校→練習と忙しい毎日を、両親が送り迎えなどでサポート。代表切符を射止めてその姿が頭に浮かんだ。

重圧から大会前は「早く終わってほしい」と繰り返し、準決勝までは勢いを欠いて首をひねった。決勝の朝、西条コーチから「攻めろ!」と言われた。開き直って日本新。平井コーチが「集中力やガッツが北島に似ている」という平泳ぎの新星。五輪でのライバルは、驚異のラストスパートを誇るチュプコフになる。「世界一が見えてきたが、ここから長いと思う。細かいところを伸ばしていきたい」と誓った。【益田一弘】

◆佐藤翔馬(さとう・しょうま)2001年(平13)2月8日、東京都港区生まれ。0歳から水泳教室、小3で東京SCに入る。高1から西条健二コーチに師事。慶応高-慶大。19年世界ジュニア選手権200メートル平泳ぎ銀メダル。趣味はラーメンめぐり。好きな食べ物はタピオカと牛タン。177センチ、74キロ