今月上旬に行われたフェンシング女子サーブルのワールドカップ(W杯)チュニジア大会で、日本勢初の優勝を果たした江村美咲(23=立飛ホールディングス)が25日、東京・立川の立飛ビルで同社の村山正道社長から報奨金100万円を贈られた。

サーブル種目では男女を通じて初のW杯金メダル。団体戦でも銀メダルを獲得し、続くグランプリ(GP)イタリア大会では個人戦で銅メダルと量産した。前日24日に帰国し「メダル3つを持ち帰ることができてうれしい。使い道は…じっくり考えたい」と晴れやかな笑顔で語った。

昨春から日本フェンシング界初のプロとして活動しており「支えられている立飛さんやスポンサーさんに恩返しというか、何か少し返せたのかな」と喜んだ。一方で「まだ正直、ピンときてなくて。1回や2回は優勝できても、その後に勝てなくなった選手は国内外で見てきた。あらためて気を引き締めたい。目標の(24年)パリ五輪(オリンピック)で金メダルを取りたい」と決意を新たにした。

昨夏の東京オリンピック(五輪)は個人戦が3回戦敗退で、団体戦が5位(過去最高)だった。

「望んでいた結果ではなかったけれど、力は出し切れた。でもその後に、自分でも認めたくなかったんですけど、燃え尽き症候群のようになってしまって」

好きでプロにまでなったフェンシングが楽しいと思えない。

「(プロになったことで)仕事なんだから、と練習を重ねれば重ねるほど、精神的にも追い込まれていって。パフォーマンスにも影響してしまって…」

立ち直るきっかけを模索していた昨年末、村山社長との高級焼き肉で「余白を持ちなさい」とアドバイスされた。「相談に乗ってもらってスッキリした」。年明け1月から3月に長期海外遠征。ここでもフェンシング漬けの日々に再び気がめいった、開き直った。休んで買い物して髪の色を金色に染めて、心を整えた。

「ここまで明るい色は初めて。金メダルとか考えてなくて。でも。気分転換はしたかった。何かを変えたい。ちょっとやそっとの色じゃ…と思って、ここまでの色にしました」

世界ランキングも、サーブル種目では日本勢歴代最高の3位まで浮上した。

「1月に立てた目標は国際大会の金メダルと世界ランキング1桁。それをチュニジアで達成して、次のイタリアでは3位以内に上方修正したら、すぐそれも…(笑い)」

次は、日本女子がまだ手にしていない五輪の金メダルへ突き進んでいく。

新たに師事する、パリ五輪開催国フランスのジェローム・コーチとの出会いも大きかった。「練習から新しい発見ばかり。自分の動作って、こんなに単純だったんだなと。きつくなると歩幅を大きくして点を取りにいきがちなんですけど、そこは複雑なステップを意識して。今までが短距離なら中距離。粘り強くなれた」という実感がある。

精神的にも「今までは、言葉は悪いですけど『ぶっ倒す』だった。相手は敵、敵、敵と。でも、それだけでは勝てないとコーチと対話する中で気付き、自分のフェンシング、ってこだわりすぎていた部分が柔軟になった」と幅が広がった。

父で08年北京五輪代表監督の宏二さんも同席し「フルーレがお家芸の日本で、サーブルの世界ランク3位は夢のような話」と頬を緩めた。

自身が日本代表を率いた時代から、育成・発掘やコーチ招請に取り組んできた成果が形になり始め「自分の時代からは信じられないが、娘は世界ジュニア・カデ選手権の2年連続メダルだったり、段階的に世界で戦ってきた結果。ただ、最も大事なのは次の五輪前のシーズンなので。その選考レースでも勝って出場権を獲得して、パリ五輪でチャンスをつかんでもらいたい」と期待を寄せた。

一躍、世界トップクラスの剣士になった江村は、つかの間の休息をへて6月のアジア選手権(ソウル)へ向かう。

「まだまだ自分を信じ切れないところもあるんですけど、少しずつパリの金メダルにふさわしい選手になっていければ。W杯の団体戦決勝では韓国にかなりの点差をつけられて(25-45)負けてしまったので、まず中国に勝って、より早く合う戦術を試合の中では見つけて、決勝で韓国にリベンジすることが目標です」

団体戦では世界ランク1位チームに借りを返す。W杯女王として、個人戦でもアジアでは負けられない。【木下淳】