14年ソチ、18年平昌オリンピック(五輪)2連覇王者で、今年7月にプロ転向した羽生結弦さん(27)が夢を現実にした初の単独アイスショー6曲目は、初公開となる新演目だった。

自ら、全ての振り付けも手掛けたという「いつか終わる夢」。愛するゲームで「めちゃめちゃ好き」という「ファイナルファンタジー10」のテーマ曲で、Perfumeらを担当する演出家のMIKIKOさんと初コラボレーションしたものだった。

荘厳なプロジェクションマッピングも合わせて「皆さんが好きだと言ってくださったクールダウンの動きのところにピタッとはまったんですね。この曲というか、このプログラムに。そういえばクールダウン見たい、っておっしゃられていたので、じゃあプログラムにしようと思いつきました」とファンを思い、氷の上を、深海を泳ぐように雄大に舞った。

羽生さんが込めたコンセプトは、こうだった。

「原作である『ファイナルファンタジー10』の動きも、いろんなことを考えながら作っていく時に、僕自身の夢って、もともとは五輪2連覇というのが夢でした。そのあとに4回転半という夢を追い求めてきました。ある意味では、アマチュアという競技では達成することはできなかったし、ある意味ではISU(国際スケート連盟)公認の初めての、4回転半の成功者にはなれませんでした」

確かに世界初の成功こそ米国の17歳イリア・マリニンに譲ったが、その新鋭は「ユヅルにインスピレーションを受けた」と羽生さんの挑戦が道を切り拓いたことを強調し、先駆者の姿勢は見る人の胸を打った。

「そういう意味で、いつか終わる夢-。皆さんに期待していただいているのにできない。だけど、やりたいと願う。だけど、疲れてもうやりたくないって。皆さんに応援していただければいただくほど、自分の気持ちがおろそかになっていって、何も聞きたくなくなってしまって。でも、やっぱり皆さんの期待に応えたいみたいな。自分の心の中のジレンマを表現したつもりです」

「いつか終わる夢と、最後の『春よ来い』に関しては、演出はMIKIKO先生にお願いしました。ここまで本格的なプロジェクションマッピングを演出としてやっていただいたので、皆さんの中でフィギュアを見る目が変わったと思います。同じ目線から見るスケートと、下から見るスケートと、上から見るスケートと、またカメラを通じて見るスケートと、全く違った見え方がすると思うので、ぜひぜひ皆さんに見ていただきたいと思うプログラムです」

公演の中では北京五輪で右足首を負傷し、結果4位になった映像も盛り込んだが、全ては新たな道を進んでいくためのものだった。

♪誰よりも転んで 誰よりも泣いて 誰よりも君は立ち上がってきた-

SEKAI NO OWARI「サザンカ」の歌詞のような半生を振り返り、ナレーションでは「たとえ報われない努力だったとしても、歩んできたものが無駄だったとしても」と北京五輪での名言を伝えつつ、ファンの活力に少しでもなったのであれば「これ以上ないくらい、報われています、僕は幸せです」。感謝を伝えるための第2章のプロローグ(序章)にもなった。【木下淳】