阪神、ロッテで活躍した鳥谷敬氏(41=日刊スポーツ評論家)がアスリートに迫る「鳥谷敬×パリ五輪の星」。第7回では男子バスケットボール界の新星、河村勇輝(21=横浜ビー・コルセアーズ)の現在地を深掘りした。172センチの若き司令塔は今年7月に日本代表デビュー。なぜ東海大を中退したのか? NBA挑戦の可能性は? 頭脳派ポイントガードが今と未来を語り尽くした。【取材・構成=佐井陽介、奥岡幹浩】

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鳥谷 小さい頃は野球もやっていたそうですね。バスケを始めたきっかけは?

河村 地元にすごく有名なチームがあって。父もバスケットの経験があり、その影響があって小学2年生でチームに入りました。

鳥谷 自分が子供の頃はマイケル・ジョーダンがいました。シカゴ・ブルズもロサンゼルス・レーカーズも強くて、漫画の「スラムダンク」も人気でした。河村選手のヒーローは誰だったのですか?

河村 やっぱりマイケル・ジョーダンですね。父がジョーダンの大ファンで、家にビデオ集があったんです。その影響で昔の試合や映像を見て感動して…。

鳥谷 ご両親が先生で勉強もよくできたとか。中学時代は成績が「オール5」だったとも聞きました。

河村 自分で「できた」とは言えませんが(苦笑い)。勉強が第一で文武両道が大事だとは、両親からずっと言われていました。

鳥谷 今春、東海大中退を決断されましたね。ご両親の反応はどうでしたか?

河村 大学を辞めるということは、後ろ盾をなくしてバスケット一筋でやるということ。自分で決めた道だし、自分で責任を取れるならそうしなさいと言ってくれました。

鳥谷 大学卒業を選ばず、プロ転向を2年早めた理由を教えてください。

河村 来年に沖縄で開催されるW杯、24年のパリ五輪になんとしても出場したいという思いがありました。そのためには国内最高峰のBリーグで結果を残すことがアピールになる、最善の道になると考えました。

鳥谷 なるほど。次はプレースタイルについても聞かせてください。身長は何センチぐらいですか?

河村 172センチです。バスケは身長がモノを言うスポーツ。ハンディは感じています。ただ、身長が低いからこそできることも多くあります。クイックネスさだったり、ボールへの執着心だったり…。そういうところは売りにできる。最大限に生かしながらプレーしたいと思っています。

鳥谷 ノールックパスも武器にされていますよね。あれは事前に相手と動きを決めているのですか?

河村 この選手は大体こう動くだろうと予測しながらパスを出しますが、受け手との信頼関係が本当に大事なんです。日々の練習でのコミュニケーションが大事になってきますね。

鳥谷 ノールックパスはミスした時のリスクも大きそうですが…。

河村 もちろん、1つのミスで良い流れを止めてしまうこともあります。でも、やっぱりノールックパスで気持ちが高ぶるし、観客の皆さんにも面白いと喜んでもらえれば自分も幸せなので。魅力のあるプレーも大切にしていきたいです。

鳥谷 今年7月には日本代表デビューも飾りました。世界レベルで感じた課題はありましたか?

河村 Bリーグではどんな相手にも速さでは負けないと思って戦っていましたが、他国にはそれ以上に速くてデカくて強い選手がいて…。スピード、クイックネスから派生したテクニックをもっと身につける必要があると感じました。一方でスピードの使い方やボールに対する執着心には通用する部分もありました。もっと勘を磨いていけば、高さのハンディを補えるディフェンス力も持てるのではないかと考えています。

鳥谷 ところで将来的にはNBA挑戦にも興味があったりするのですか?

河村 NBAという舞台は各国の代表選手ですら行けないような、本当に高い場所。まずは日本代表で活躍して世界と戦える選手になる。そうすれば見えてくる部分もあるはずです。タイミングやチャンスも必要になる。そういったところを見極めながら狙っていきたいと思っています。

鳥谷 これからさらに日本人選手がNBAで戦っていくためには、一体何が必要だと思いますか?

河村 NBAには本当に考えられない、どうにもならない世界がたくさんあります。それでもNBAで活躍されている八村選手、渡辺選手が言っていましたけど、NBAをもっと近い場所だと考えて挑戦しようとする気持ちが大事なんだと考えています。

鳥谷 野球で言えば、ひと昔前は誰も大リーガーになろうとはしなかった。それが今では先輩、同世代、後輩が次々に海を渡っていますからね。河村選手のようなスタイルの日本人選手がNBAで活躍する日が楽しみです。最後に1つ。これからバスケの認知度、盛り上がりをさらに高めるために考えていることがあれば、教えてください。

河村 世界に勝つこと、ですね。サッカーであればW杯、野球であればWBCのイメージですが、やっぱり日本代表が勝ち上がって国民の皆さんに熱狂してもらえれば、認知度も上がっていくと思うんです。男子バスケはまだ世界大会で1勝もできていない。東京五輪も3連敗と残念な結果に終わってしまった。次こそは五輪やW杯で勝っていく姿を見せないといけない。もちろん、自分も絶対にそのメンバーの1人でありたいと思っています。

 

◆バスケ男子日本代表の現状 13年ぶりに出場した19年中国W杯(旧名称・世界選手権)では5戦全敗。開催国枠で45年ぶりに出場した21年東京五輪も3戦全敗に終わった。現在は東京五輪で女子日本代表を銀メダルに導いたトム・ホーバス監督が男子の指揮を執る。9月発表の最新世界ランキングでは38位。インドネシア、フィリピンと日本(沖縄)で共催する23年W杯には開催国枠での出場が決定済みで、アジア地区最上位になれば24年パリ五輪出場が決まる。ベスト16進出、もしくはアジア地区2位となれば五輪世界最終予選に回る。

 

◆河村勇輝(かわむら・ゆうき)2001年(平13)5月2日生まれ、山口県出身。福岡第一高でウインターカップ2連覇。高校3年の20年1月に特別指定選手でBリーグ三遠に加わり、18歳8カ月23日で当時のB1最年少出場、最年少得点記録を更新した。東海大1年の20年12月、2年の21年12月に同指定選手で横浜BCに入団し、現在も所属。22年3月に東海大中退。野球経験があり、尊敬する人物の1人は「イチローさん」。身長172センチ。