引退会見に臨んだ車いすテニスの国枝慎吾さん(38=ユニクロ)から思いを託された小田凱人(ときと、東海理化)は、後継者としての覚悟をはっきり口にしていた。

6日に行われた全豪オープン準V報告会。16歳のホープは真剣なまなざしで言った。

「僕は必ず国枝選手の次としてやっていく。(競技を)始めた時から絶対になってやるという気持ちでやってきた」

9歳の時に左股関節に骨肉腫を発症し、左足の股関節と大腿(だいたい)骨の一部を切除。寝たきりの病院で魅了されたのが、ロンドンパラリンピックの決勝に臨む国枝さんの映像だった。「これが一番やりたい」。退院後、その背中を追ってラケットを握った。めきめきと力をつけ、20年の世界ジュニアマスターズでシングルスとダブルスを制覇。昨年5月の全仏オープンでは4強に入った。

それでも、国枝さんには勝てなかった。昨年1月の初対戦から4戦全敗。うち2度はストレート負けと力の差を見せられたが、最後の対決は違った。

昨年10月の楽天オープン決勝。セットカウント1-1で迎えた最終セット、1ゲームしか奪えずに突入した第7ゲームにチャンピオンシップポイントを握られたが、土壇場から猛反撃を見せた。強打で5ゲームを連取し、6-5と一気に逆転。最後は国枝さんの意地に屈したが、王者に成長の跡を示した。2時間27分の激闘後、「この舞台にさらに強くなって戻ってくる」と誓った。

その3カ月後の1月上旬。オーストラリア遠征出発前に携帯電話が鳴った。国枝から現役引退の報告とともに、激励を受けた。

「これからも頑張ってという内容を伝えてもらって、うれしかった」と笑った。

憧れの人に勝つことはできなかった。でも今は、感謝が胸を覆う。

「同じ場に立てただけで、いろいろなことを学べた」

“ポスト国枝”という声も真正面から受け止める。

「期待されていると捉えて、もっともっと頑張っていきたい」

車いすテニスと出合わせてくれた国枝さんへ、小田の恩返しが始まる。【藤塚大輔】