プロフィギュアスケーターの羽生結弦さん(28)が26日、独り舞台となったアイスショー「GIFT」でスケーターとして初の東京ドーム公演を行った。大がかりな演出で、アイスショーを進化させると誓った舞台。14年ソチ、18年平昌五輪の2連覇などの来歴を振り返るモノローグ、試合さながらの練習からの演技、4回転を含む技術までを、満員となる3万5000人の観客に届けた。

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炎の中にシルエットが浮かび上がっていった。生オーケストラが演奏する「火の鳥」の調べに合わせ、燃え盛る映像を映し出す大型スクリーン。その中央からクレーンがせり上がり、その先端に羽生さんがいた。

誰も見たことない光景だった。東京ドームが日本初の屋根付き球場として88年3月18日に開場して1万2763日目。初めて、場内にリンクが張られた。その白い氷が真っ赤に燃える中に降り立ち、滑り始めた。

「自分って、なんてちっぽけな人間なんだろう」。天高い空間で3万5000人の瞳を一身に受ける。スケート人生でもなかった感覚。ただ、ひるまない。むしろ力に変えていく。

制作総指揮。「羽生結弦の半生とこれからを氷上で表現する物語」を軸にした演出には、Perfumeらを手がけるMIKIKOさんらが加わった。自身の生誕からの人生での孤独にまつわる苦悩、葛藤などの独白が映像に重なり、その節目に作品を舞った。

「力を借りて、ちっぽけな人間であったとしても、いろんな力が皆さんに届いたんじゃないかな」。控えめだが、滑り終えて確信があった。それは11年の東日本大震災でも感じたことにも重なる。「皆さんの力が羽生結弦っていう1つの存在に対して集まったからこそ、絆があったからこそ、進めた力が伝えられた公演だったんじゃないかな」。

自らも前に進む姿を示した。中盤には21-22年シーズンのショートプログラム(SP)「序奏とロンド・カプリチオーソ」に、試合同様に6分間練習も設けた。22年北京五輪ではリンクの穴にはまった4回転サルコーも決めた。「あの時、夢をつかみきれなかったものを今はつかみ取るんだ。『これからも突き進んでいくんだ』というイメージを込めた」と右拳を高々と突き上げた。

フィナーレに向かう中、独白で前に向かう覚悟を固め、「火の鳥」で登場したリフトに乗り込み、先へ向かう姿を示した。

「僕の半生を描いたような物語でもありつつ、でも皆さんにとっても、きっとこういう経験あるんじゃないかなって思って、つづった物語たちです。少しでも皆さんの『1人』という心に『贈り物』を」。

プロ転向から8カ月。「幸せでした」。その記憶を自分への贈り物に、演技を届け続ける。【阿部健吾】

 

◆「Yuzuru Hanyu ICE STORY 2023“GIFT”at Tokyo Dome」 羽生さん制作総指揮。スケーター史上初となる東京ドーム単独アイスショー。タイトルの意味は「恩返しの贈り物」(羽生さん)。今月11日にSS席2万7500円をはじめとする全席種のチケットが完売した。韓国、台湾、香港も含めた国内外の映画館での生上映や有料ライブ配信も行われた。