ショートプログラム(SP)首位の三浦璃来(21)、木原龍一(30)組(木下グループ)が日本ペア初優勝を飾った。フリー2位の141.44点を記録し、今季世界最高を更新する合計222.16点。SP、フリー、合計全てで自己最高を上回り、グランプリ(GP)ファイナル、4大陸選手権と合わせて日本初の「年間グランドスラム」を達成した。結成4季目の「りくりゅう」が、日本フィギュア界の歴史を塗り替えた。

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順位に目を見開いた三浦を、木原が抱き締めた。2人にブルーノ・マルコット・コーチが肩を寄せ、苦楽を知る3人で泣いた。中盤のスロー3回転ループで三浦が転倒。演技後は肩を落とし、木原に「観客席を見てごらん。胸を張ろう」と励まされていた。日本ペア初の世界王者。快挙を総立ちの観衆が祝ってくれた。

木原 母国の世界選手権で一緒に優勝することができて、すごくうれしい。10年後、20年後に「今日をきっかけに日本のペアは変わったね」という日になったらいいなと願っています。

充実した大会前の練習は、最終滑走の演技ににじんだ。序盤は3連続ジャンプを2人でそろえ、10点満点のスケート技術は全組トップの9.11点。安定感あるリフトで高い加点も得た。それだけに三浦は終盤の転倒を悔やんだ。頭を整理した取材エリアで「自分に勝てなかった気持ちの弱さ。もう1回トライしたら踏ん張れた」と言い、隣の木原が「みんな、それ(たられば)言うよ」と笑わせた。

相性抜群の2人を支えるのがチームだ。普段はカナダ・オークビルで競技最優先の生活を送る。今大会に同行したマルコット・コーチの教えは「常にポジティブであれ」。新型コロナウイルス感染拡大直後に1年3カ月帰国できなかった時も、頼りはパートナーであり、チームだった。昨秋のGPシリーズ前は同コーチと妻のメーガン・デュハメル・コーチが暮らす家に招かれた。「これ、何のスムージー?」「ありがとう」。夫妻の子どもとのおままごとでは、そのやりとりを5回繰り返した。スケートの話題は一切ない、シーズンに向けた激励会だった。

歴代の名選手がその名を連ねる「年間グランドスラム」。直近のペアの達成が14~15年シーズンにカナダを背負い、ラドフォードと1位を並べたデュハメル・コーチだった。大会1週間前には子ども2人を連れた同コーチに、拠点のリンクで勇気づけられた。不思議な縁を2人はかみしめた。

木原 コーチのメーガンに「追い付いたね」と言っていただけるように、これからも努力したいです。

三浦 今回失敗した分、来季はもっともっと頑張っていけたらなと思います。

かねて2大会先の30年五輪まで目指す志を共有してきた。「りくりゅう」の理想は先にある。【松本航】

○…2人を指導するカナダ人のマルコット・コーチが称賛した。優勝しても悔しがる姿に「彼らが歴史を変えた瞬間に焦点を当てないのは、過去ではなく未来を見ているから」。難しいのは「連覇だ」と成長を促しつつ「最終目標はミラノ(26年五輪)で表彰台の一番上に立つこと」とした。年間グランドスラムの意味には「いつかリクとリュウイチが引退して帰国し、指導者をやりたくなってくれれば、この国のペアは男子と女子と同じような強豪国になるはずだ」と期待した。

◆年間グランドスラム 国際スケート連盟(ISU)主催のGPファイナル、4大陸選手権もしくは欧州選手権、世界選手権を同一年度に全制覇すること。最近では女子のメドベージェワ、ペアのデュハメル・ラドフォード組、アイスダンスのパパダキス・シゼロン組が果たしており、日本では達成者がいなかった。別シーズンも含めた生涯グランドスラムは高橋大輔、羽生結弦、宇野昌磨、浅田真央が達成。4年に1度の五輪金メダルを含めた「ゴールデンスラム」やジュニアの主要2大会も加えた「スーパースラム」は羽生、金妍児、ザギトワが遂げた。