アーティスティックスイミング(AS)で16年リオデジャネイロ五輪銅メダルの乾友紀子(32=井村ASク)が、現役引退を決断した。

日本水連は20日、乾が27日に都内で引退会見を開くことを発表。今後はコーチとして後進の指導にあたる見通しだ。

乾は、世界一と評される足技と、豊かな表現力で、エースとして長く日本AS界をけん引した。

12年ロンドン大会から3大会連続でオリンピック(五輪)に出場。リオ大会ではチーム、デュエットで銅メダル獲得に貢献した。

21年東京五輪ではチーム、デュエットともに4位。コロナ禍での1年延期、無観客開催もあって、不完全燃焼に終わった。閉会式の日に、小学6年生から指導を受ける井村雅代コーチに「先生、私、来シーズン、ソロをやりたい」と直訴。そして東京五輪限りで日本代表ヘッドコーチを退任した井村コーチと、1対1で競技を続行した。

22年世界選手権ブダペスト大会ではソロのテクニカルルーティン(TR)、フリールーティン(FR)でともに優勝。日本人初のソロ2冠を達成した。

さらに大幅なルール変更があった今夏の同福岡大会もTR、FRともに金メダルを獲得。無観客だった東京五輪の無念を晴らすように、日本の観客の前で、2大会連続2冠を達成した。表彰式の「君が代」に涙を流し「何としても2冠をしたいと思っていた。ぐっときた。パリ五輪はいまのところ頭にないです」と、今後について熟考していた。

今月15日には兵庫・尼崎市内で井村コーチとともにイベントに参加した。井村コーチの紹介を受けて、福岡で金メダルを獲得した「八岐大蛇(やまたのおろち)」をモチーフにしたFRを、思う存分に披露した。

福岡大会から2カ月半は、本格的なトレーニングを行っていなかった。逆三角形だった上半身もほっそりして「寂しい限りです」と井村コーチ。それでも辛口で有名な恩師から「シンクロの歴史に残るレジェンドの1人になる存在」とほめられた。そしてこの日の演技が、現役最後のパフォーマンスとなった。

乾は、福岡について「東京五輪は想像していたよりも、寂しい大会だった。福岡で、声援の中で泳げて、すごく幸せだった」と口にしている。五輪3大会連続メダルで同じ井村クの先輩、立花美哉に憧れて、井村コーチに師事してから約20年。日本のエースが、完全燃焼で、プールに別れを告げた。

◆乾友紀子(いぬい・ゆきこ)1990年(平2)12月4日、滋賀県近江八幡市生まれ。小1から競技を始めて、小6で井村コーチに師事した。近江兄弟社高-立命館大卒。日本のエースとして活躍して、オリンピック(五輪)は3大会連続出場を果たした。12年ロンドン五輪はデュエット5位、チーム5位。16年リオ五輪はデュエット、チームともに銅メダル。21年東京五輪はデュエット、チームともに4位。世界選手権の2大会連続ソロ2冠は日本初、世界でも史上2人目だった。愛称は、名字から「ワンさん」。身長170センチ。