プロフィギュアスケーター高橋大輔さん(37)が手がける新たなアイスショー「滑走屋」が10日、オーヴィジョンアイスアリーナ福岡で初日を迎える。地元福岡出身で23年全日本選手権11位の江川マリア(20=明治大)、東日本選手権17位の松岡隼矢(19=法政大)にとっては、初めての本格的なアイスショーとなる。
公演初日前日の9日、会場での公開リハーサルを終えた2人の表情は少しこわばった。氷上で高橋さん、村上佳菜子さん(29)とともに記者会見に出席。初々しくマイクを握った江川は「出られると決まった時は実感がなくて、びっくりしました。初めてのアイスショーでこういう経験ができるのは素晴らしいこと。頑張りたいと思います」と緊張をしながら意気込んだ。
2年前の2022年3月、拠点を福岡から千葉・船橋市に移した。21年6月末で老朽化などを理由にパピオアイスアリーナ(現オーヴィジョンアイスアリーナ福岡)が閉鎖。練習環境や恩師である中庭健介コーチに再び指導を受けられることなどを考え、上京した。新天地で2年目を迎え、成長を続ける中で、スピード感、力強さなどを軸に出演者をリストアップしていた高橋さんの目に留まった。
かつての練習場は多くの人の支援を受け、23年4月に営業を再開した。懐かしい風景を目に焼き付けると、特別な感情があふれた。
「私が2年前、福岡で練習していた時は、リンクが閉鎖されている状態でした。そこからまた再開されて、アイスショーができるところまでいくとは、本当にその時は考えられませんでした。うれしく思います」
松岡もこの場所を拠点とする1人だ。閉鎖中は他のリンクに1時間かけて通い、練習をする毎日。江川と思いは同じで「自分のホームリンクでアイスショーができる。ぜひ見に来てほしいです」と呼びかけた。
現役スケーターの2人にとって、高橋さんらと練習し、アイスショーを作り上げる作業は刺激的な日々だった。江川が生まれた03年12月に高橋さんは初めて全日本選手権で表彰台に立ち、松岡が生まれた04年3月の世界選手権初出場につなげた。江川は本番に向けた練習の日々を思い返し、高橋さんの場面に応じたスイッチの切り替えに驚いた。
「(高橋さんに対して)私はすごくストイックなイメージがあったので、結構イメージの通りでした。普段はすごく気さくで、優しいんですけれど、ナンバーとか、練習になると結構厳しめになって、すごくいい空気感だったなと思います」
松岡が続いた。
「しっかりと(理想と)違った部分も丁寧に、自分が体を動かして教えてくれる。分かりやすいですし…踊りがうますぎて、まねできないです」
次の言葉が出てこなくなると、少しの間を置いて「ありがとうございます」とポツリ。高橋さんが「(突然)締めた!」と間髪入れずに突っ込むと、その場は温かい雰囲気に包まれた。
現役、プロの日本人スケーターだけで作り上げる「滑走屋」は、10日から3日間にわたって計9公演を予定する。
新たな世界観を見る者に届けるだけでなく、福岡から羽ばたくスケーターが思いを伝える舞台にもなる。【松本航】