【モントリオール=阿部健吾】鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)が2年ぶり3度目の銀メダルを獲得した。

ショートプログラム(SP)2位からフリー203・30点の合計309・65点。ケガからの復帰シーズンで、新たな強さを求めた集大成を刻んだ。3連覇に挑んだSP首位の宇野昌磨(トヨタ自動車)は4位、三浦佳生(オリエンタルバイオ/目黒日大高)は8位。19歳のイリア・マリニン(米国)が6本の4回転ジャンプを決めたフリーで世界歴代最高の227・79点を記録して初優勝した。アイスダンスの小松原美里、小松原尊組(倉敷FSC)は18位だった。

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鍵山は泣き出しそうだった。それも演技中に。「こんなに応援をしてもらえるんだ」。後半の最初に跳んだトリプルアクセル(3回転半)で転倒。疲労で足が震えて着地で耐えられなかった。前半は冒頭のサルコーから、自身初成功のフリップ、そしてトーループと4回転を3本決めた。しかし同時に、初めてこの3種類をそろえた影響も大きかった。

「転んだ後の声援がすごくて」。失敗後の一瞬の静寂。そして会場は、一気に沸騰した。「早いけど」涙腺が緩みそうに高ぶった。「やらないといけない」。落胆は、使命感で消えた。「本当にお客さんに救われた」と鳴りやまぬ大声援に、最後のスピンは曲が聞こえず、少し早めにフィニッシュポーズを取るほどだった。

前半から見る者を引き込んだからこその、応援だった。「ジャンプを降りる前提でプログラムが作られてる。僕も曲に入り込めましたし、(会場も)曲を感じてくれたのかな」。左足首のケガからの復帰シーズン。指導陣に14年ソチ五輪銅のコストナー氏を迎え、世界的振付師のニコル氏にも多くを学んだ。真っ白なキャンバスに、新たな色を塗っていこうと表現面を探求した。

ジャンプがその一部になるように、一瞬の動きにまでこだわる。ウェブ上に流れる自身の写真を探し、見え方を常に意識した。どんな場面でも絵になる。それが理想。「もっとできるな」。ほんのわずかな手の角度の違いなど、無数の画像が教えてくれた。練習から、1分1秒たりとも気を抜かないように努めてきた。この日、表現面を示す10点満点の演技構成点は、全3項目で9点台を超えた。

ジャンプの制限も設けながら、ケガ前と同じ銀メダルに到達した。マリニンに敗れ「めっちゃ悔しいです」としながら、「別に僕のスケート人生、ここで終わりじゃない」とも言った。見据える26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪までは2年ある。「しっかり追いついてやりたい」。この日救ってくれた声援は、これからの逆襲の日々の背中も、押してくれる。

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