劇的な1発で貯金をもたらした。ロッテ角中勝也外野手(28)が2-3の9回2死満塁で、阪神呉昇桓から右翼へ逆転の3号満塁本塁打を放った。2死走者なしの土俵際から味方がつないで作った好機に、自身2本目のグランドスラムで応えた。終盤の逆転勝利で、チームは4月18日以来の貯金1とした。

 角中にとって、思わぬ展開だった。1点を追う9回。打席に向かう本音は「まさか、2アウトから回ってくるとは」だった。無理もない。マウンドには、阪神の守護神が仁王立ち。簡単に2死を奪われた。だが、そこから根元が遊撃手に当てながら中前に運ぶ。清田も遊撃内野安打で続く。さらに、鈴木が四球を選び塁が埋まった。「つないでくれた人のためにも打たないといけない」と念じた。

 3球で追い込まれたが、動じない技量があった。「審判とアウトコースの感覚が合った」と、際どい外の球も自信を持って見逃した。ファウルを重ね、フルカウント。「インは思い切って。見逃し三振はしない。低めの変化球ならごめんなさい」と腹をくくった9球目、内角高めのスライダーに手を出した。「ボール球。振ってしまった。外野の頭は越えてくれ」という当たりは、右翼席最前列へ飛び込んだ。実は、8回の守備に就く際「2死満塁で回ってくる」と想像した。ただし、打撃のイメージは右中間を破る当たり。現実が想像を超えた。

 敵地でヒーローインタビューを受けたが「タイプじゃない」と少し恥ずかしそうに笑った。小学校で野球を始めたが「楽しいと思ったことはない。やめたかったけど、やめられなかった。父親が厳しくて。ヒーローになりたいとも思わない」という。「野球は仕事」と言い切るバットマンが、どでかい仕事をした。「また脇役に徹したい」。ヒーローは、渋い言葉で勝利を喜んだ。【古川真弥】

 ▼角中の満塁本塁打は13年4月8日楽天戦(Kスタ宮城)で加藤大から放って以来、通算2本目。逆転満塁弾は初めてだ。1試合5打点は自己最多。相手の阪神呉昇桓は走者満塁の場面で昨季は打者4人を無安打、今季も試合前まで打者5人を無安打に抑え来日以来、失点がなかった。