平和への思いを一層強める米国出身の助っ人がいた。来日6年目。阪神マット・マートン外野手(33)は試合前、平和記念式典の行われた平和記念公園へと足を運び、野球が出来る幸せと、この平和を次世代に受け継ぐ責任をかみしめた。2試合連続の猛打賞となる3安打で1打点。全力プレーから、助っ人の信念が伝わってきた。

 8月6日。午前8時を過ぎたころ、マートンは人知れず平和記念公園の土を踏んでいた。広島に原爆が投下された朝から70年。「日本だけでなく、アメリカだけでなく、世界に祈りを届けたい」。平和に向けた心からの願いを込め、「ピースナイター」では全力プレーを貫いた。

 カープナインが「8・6」の数字を合わせた背番号86のユニホームを着用。鳴り物応援は自粛され、特別な雰囲気でゲームはスタートした。マートンは2点リードの3回2死一塁で二遊間を抜き、まずは6番今成、7番江越の連続適時打をお膳立て。4点リードで迎えた7回1死二塁では一岡の内角フォークをコンパクトに払い、ライナーで左翼ロサリオを越える適時二塁打を決めた。9回にも三遊間を抜き、2戦連続の3安打以上を記録した。

 「もう日本に6年いるけど、なかなか行く機会がなかった。8月6日に広島にいるのだから、行かせてもらおうと思ったんだ」

 午前中は自らの意思で出向き、初めて平和記念式典を目の当たりにした。初めて平和記念資料館にも足を踏み入れた。「(原爆投下は)悲しい現実であると同時に歴史の一部でもある。関わった国が自分の国と、今いる国で複雑な気持ちになったよ」。

 炎天下の中で祈りをささげる人たち、残酷な事実を物語る資料の数々…。目を背けることなく、脳裏に焼きつけた。

 「いろんなことが頭の中をよぎったよ。直接原爆の被害に遭われた方々のこともそうだし、まだ残された家族の方々もたくさんおられるだろうし…。自分たちの世代だけじゃなく、子供の世代にもああいう大変な思いを味わってほしくない。世界平和を祈りたい」

 長い1日は猛虎の勝利で幕を閉じた。「特別な試合だったけど、どんな状況でもベストを尽くすことに変わりはないからね。今日はチームが勝てて良かったよ」。優しい笑みを浮かべ、マツダスタジアムを後にした。ここ3試合は計14打数9安打、打率6割4分3厘と勢いが止まらない。野球に専念できる喜びを再認識した夜。さらなる急上昇への分岐点となるかもしれない。【佐井陽介】

 ▼マートンの2試合連続猛打賞は今季初で、14年7月5、6日DeNA戦、8日広島戦の3戦連続以来13度目。自身最長は4試合連続で、13年9月18、19日広島戦、21、22日ヤクルト戦で記録。