わずか30センチの変化が、セットアッパー大瀬良大地投手(24)を変えた。6月上旬に先発から中継ぎに配置転換され、今や無くてはならない存在になっている大瀬良。“覚醒”の裏にはプレートを使う位置を変える30センチの勇気があった。得た自信と責任を胸に、残り23試合は全試合フル回転の覚悟で臨む。

 わずか30センチの、大きな勇気だった。大瀬良は6月上旬、プレートの踏み位置を三塁側から一塁側に変えた。野球を始めた小学4年生から、ずっと三塁側を使ってきた。考えたこともないことだった。だが先発で勝てない日々が続き、チーム事情も重なって中継ぎに配置転換された。アクションを起こすには最高のタイミング。もう1度、自分の投球の特徴をかみ砕いた。

 「プロに入ってからずっと右打者の内角に行けば行くほど強いボールが行っていた。逆に外への強いボールが課題。じゃあ、と考えて。僕なりの工夫でした」

 一般的に本格派投手は三塁側を使い、シュート系の球種を駆使する投手や、スライダーに変化を持たせたい投手が一塁側を使うことが多い。大瀬良はどちらにも当てはまるわけではなかったが、自分の武器と弱点を考えて行動に移した。強い球を投げるには-。シーズン中はウエートで体を変化させることは出来ない。これが最大の工夫だった。

 投手はそれぞれが繊細な感覚を持つ。大瀬良も例外なく、わずか30センチの変化で生まれる違和感に悩まされた。「景色も違うし、居心地の悪さがありました」。だが投じるボールには手応えがあった。強いボールを次々に投げられ、決め球スライダーやカットボールも直球に近い軌道で変化するようになった。「これでいく」。次第に慣れると、大瀬良のなかで固まった。

 きれいなマウンドから荒れたマウンドが職場に変わった。思い通りの足場が出来ず「もう、嫌だな」と思ったこともある。だが掘れている足場に合わせて数センチプレートの位置をずらすなど、ここでも工夫を重ねる。笑顔を消し、感情も極力封印。1球の重みを感じながら投げ込む日々が続く。

 ここまで中継ぎで31試合に登板し防御率2・00。文句なしの数字だが「日々勉強」と言う。終盤の出番に備え先発投手の組み立てを見るため、モニターから目を離さなくなった。ルーティンも確立。体の臨戦態勢を整え、登板直前にブルペンで差し出されるタオルと一杯の水、「力水」で心のスイッチを入れるという。

 チームは残り23試合を残し借金5の4位。崖っぷちの状況は変わらない。「全部投げるつもりでいます」。しびれる場面での経験は、先発に戻っても肥やしになるに違いない。まずは残り試合、チームのために惜しみなく腕を振る。【池本泰尚】