巨人打線が新オーダーで覚醒した。高橋由伸監督(41)は阿部を今季初めて4番で起用。0-1の4回に阿部が同点打を放ち5番昇格の村田が勝ち越し2ランを決めると打線が一気に活気づいた。3年ぶり7者連続安打と2年ぶり1イニング3本塁打で一挙6点。首位と最大11・5ゲーム差をひっくり返した96年「メークドラマ」も9者連続安打を放った7月9日広島戦が反撃のきっかけだった。先発全員安打の勢いを明日26日からの首位広島3連戦にぶつける。

 忘れかけていた打ち方を思い出したように、1点を追う4回1死からHランプがともり続けた。坂本の二塁打を号砲に9番マイコラスまでノンストップの7者連続安打。村田、ギャレットが連続アーチ、山本を挟み小林誠の2ランも飛び出し一挙6得点だ。高橋監督は「見ている方は気楽とは言えないけど、いいですね。それぞれがいい打撃をしてくれた」と目尻を下げた。

 “打ち方を忘れかけていた打線”をよみがえらせたのは、あの男だった。阿部が今季初めて4番に座った。右肩痛などで5月末復帰と出遅れを考慮され、5番で起用されていた。だが体の状態も良く、この試合までに得点圏打率3割6分6厘と上昇。満を持して“定位置”に戻ると「(練習の途中まで4番と)気付かなかった」と、自然体で大仕事をやってのけた。

 0-1の4回1死二塁から肘をたたんで内角の変化球を右前にはじき返し、同点とした。打線を活性化させた一打に「打点を挙げられて良かった」とひと息ついた。続く村田が今永の初球の内角低めスライダーを拾い上げて一直線で左翼ポール際へ12号2ラン。「阿部さんが打って一気にいけて良かった」と喜んだ。

 “忘れかけていた”のは打ち方だけではなかった。村田は2日前に、大事なものを忘れてしまった。22日DeNA戦は4打数無安打で延長12回サヨナラ負け。なぜ打てなかったのか-。自問自答のまま帰宅すると部屋は真っ暗で妻も3人の息子も不在…。「え?」とハッとした。「球場に置いて帰っちゃいました。先に帰っていると思って…」。長嶋茂雄終身名誉監督が現役時代、息子の一茂氏を球場に忘れてきたという“伝説”に重なった。

 忘れられない歴史がある。球団史に輝く「メークドラマ」を起こしたのは、そのミスターだった。96年に最大11・5ゲーム差を大逆転した。タクトが激しく動き始めたのは、この日と同じ連打劇からだった。7月9日、札幌円山球場の広島戦で見せた9者連続安打が起点になった。

 追いかける相手が広島、怒とうの連打で10ゲーム差に縮めたのも当時と同じだ。明日から広島との3連戦に臨む。阿部は「いい形で戦える」と気合いを入れ直した。90試合目にしてようやく手にした勢いを忘れず、奇跡の序章につなげる。【浜本卓也】