<ソフトバンク12-3西武>◇5日◇福岡ヤフードーム

 逆転Vを狙うソフトバンクが、ミラクル攻撃で首位日本ハムに食らいついた。1点を追う3回裏に打者12人の猛攻。西武投手陣の四球連発の乱調を逃さず、3連続タイムリーなどで逆転勝ちを飾った。決勝打を放ったのは右ひざ痛を抱える松中信彦外野手(35)。スタメン復帰後、打率5割2分9厘と驚異の集中力を見せる主砲が、4・5差で追う日本ハムからミラクル逆転優勝を奪い取る。

 西武投手陣の四球連発に乗じたソフトバンクのミラクル攻撃の基軸には、やはり、この男がいた。主砲松中だ。決勝の中越え打を放つと、競歩のような走り方で二塁ベースに到達した。右ひざ痛を抱え、打った直後は跳ねるような格好で歩を進めるしかない。ミートできなければ、体勢は大きく崩れ、苦痛に顔はゆがむ。打席に立つことすら奇跡のようなスラッガーが、打者12人を送り込んだ3回裏にひときわ輝いていた。

 状況は最も過酷と言えた。同点に追いつき、なおも、無死一、二塁。内野ゴロを打てば併殺が確実。全力疾走できない主砲は考えた。「ゴロだったらゲッツーになるので、三振かフライ」。ボールの下半分に狙いを定めた。絶好球が来たのは8球目。仕留めたのは、高めに浮いた直球だった。

 驚異の集中力でケガをカバーしている。松中は「僕の中では1試合1試合と思っている。先のことを考えず1試合ずつやっていく」と話した。その言葉には右ひざが壊れても逆転優勝のため一打に賭ける執念がにじむ。5回裏にも二塁打を放ち、この日3打数2安打。スタメンに強行復帰した1日以降5試合連続安打。しかも、4連勝を導く4戦連続マルチ安打は今季初めてだ。

 復帰5試合で17打数9安打で打率5割2分9厘。構えた際に重心を低く保ち、左足に体重を残したままスイングする「変形打法」。かつてバリー・ボンズの軸足打法にも取り組んだことのある松中の安打量産に、秋山監督も「また開眼したかな。新たな打法だよ」と舌を巻いた。

 松中同様、ここ一番の集中力をナインは3回裏に高めていた。主砲の直前に同点中前打を放った小久保は「ボールを振らないことを考えた」と、荒れ球の西武木村の失投を見逃さなかった。松中の直後には、左手首を痛めながら先発メンバーに入った多村が中前適時打。一塁側ベンチで「この回で決めるゾ」との声が飛んだ中、3者連続タイムリーを含む9者連続出塁(そのうち四球は5)の猛攻で、逆転白星を手中にした。

 逆転サヨナラ勝利翌日の大勝で4連勝。後半戦最多タイの貯金15。秋山監督は「今日はワンチャンスで決めた。相手の自滅もあったが、集中打が出た。みんな集中してやっている」とチームの上昇気流を感じ取った。首位日本ハムと4・5ゲーム差。ミラクル逆転Vへ。おぼろげに見える、その軌道に、秋山ホークスが乗った。

 [2009年9月6日11時27分

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